少年、少女に魔法を伝授する④
「はあ、はあ、はあ」
「お疲れ様、ライラ」
「あ、ありがとう」
ラルカが童子の宝物庫からマグカップを取り出し、ミルクを注いだ。ライラはそれを勢いよく飲みほした。
「ありがとう。のど乾いていたんだ」
「よかった。ね、ライラって大斧の扱いってお父さんから学んだの?」
ラルカは一切息切れしていない。先ほどの試合、ライラは全力だったが、ラルカは一割も力を出していないことがわかり、それが少し寂しかった。
「いや。直接教わってはいないな。ただとうさんの戦い方を参考にはしているが」
ライラの大斧は柄が長く、斧と言っても形状はハルバートのほうが近い。ライラの父ジークはその長さを生かした中距離の間合いでの戦いを得意としていた。ライラはそれに近いものの、ややカウンター型の戦法をとることが多かった。
「学園に来て、グラン先生に教えてもらわなかったの?」
「初めは、教えてもらってたんだが」
ライラがほんの少しだけ、顔をしかめた。
「なんとなく、合わなかったんだよ」
ラルカはグラン・ドゥニ教諭の型を思い出した。ライラは一撃の威力を重視した型で、歩法も大股である。ドゥニ教諭はフェイントを多用するため細かい動きが多く、歩法も軽快にステップを刻んでいた。そもそもドゥニ教諭の特異な武器はスピアーであり、大斧とは長柄と言うだけで全くの別武器である。ラルカはなるほど、と呟いた。
「お前の剣術は、お父上のイズミ様の直伝か」
「うん、お父さんの流派の、玖翼妙見流だよ。まだ皆伝はもらってないけど」
「厳しいな」
ライラが笑う。
「厳しいんだ」
ラルカも笑った。
「イズミ様って、お前より強いんだよな」
「うん、僕なんか全然かなわないよ」
「魔法を使ってもか?」
「うん、って言うより、魔法が一切当たらないんだ。お父さん曰く、魔法の軌道を読むんじゃなくて、僕の殺気を読むんだって。だから目をつぶっててもよけられるって言うから、じゃあ目をつぶって戦ってよって言ったことがあったんだ」
「それで?」
「ほんとに全部よけられた。雷魔法でも。剣も全然当たらないし」
「・・・すごいな」
さすがに信じられない、と思ったが、ラルカが嘘を言っているとは思えなかった。ラルカは悔しそうな、だが少し誇らしいような顔をしている。
「七星使徒の中で、誰が一番強いんだ?」
ライラがそう尋ねると、ラルカは少し考えて、
「うーん、一対一だったらお父さんかジンブじいちゃだと思うけど、対多数だったらヨミ姉ちゃんか、フロートおじさんのほうが有利かな」
「そうか・・・」
先ほどラルカとの手合わせを思い出した。自分の強さはどんなに甘い点をつけてもラルカの十分の一以下だろう。ラルカの隣に立つには、少なくとも今より十倍は強くならなければならない、と言うことだ。
(遠いな)
悲壮感はない。ただ決意だけがあった。
「わたしは、もっと強くなる。とうさん、かあさんのためにも。そして、お前のためにも」
ライラはラルカの顔をまっすぐ見据えた。ラルカはそんなライラの顔が、とてもきれいに見えた。えへへと笑うと、ライラも笑った。二人の間に流れる風はただ優しかった。
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