少年、少女と一緒に祖父へ再び会いに行く③
「ねえねえ、この武器の名前ってなに?」
ラルカが涙を流すライラを気遣い、わざと明るい声を出した。
「ふむ、それなんじゃがの、ラルカ、お主が決めてくれんか」
「えっ僕が?」
ラルカが少し驚いた顔をした。
「ふむ、わしも考えていたのだが、お嬢さんの武具は、お主がつけたほうがいいと思っての」
「ちょ、ちょっと待ってください、名までいただけるのですか」
ラルカがうーんと腕組みをしている横で、ライラが少し慌てた様子でガドンに尋ねた。
「うむ、やはり良い武具には名をつけんとの。わしも久々に名をつけたいと思ったのじゃ」
簡単にガドンは言ったが、職人が名をつけることを許した武具と言うのはその職人の傑作を意味する。国宝・ガドン作の名がついた武具ともなれば、もはや高価という域を超え、その所有権を争って戦争すら起こりかねない。
「安心しなさい、お嬢さん。その武具にはわしの銘とともに、お嬢さんの名も刻んである。お嬢さんから奪おうなどと言うバカはなかなかいないじゃろう」
不安そうな表情を浮かべたライラを安心させるように、ガドンが大斧の柄を指さす。そこには、“誇り高き戦士ライラへ贈る。ガドン・マレウス”と刻まれている。万が一この武具をライラから奪うようなことがあれば、犯人はガドンの怒りを買う。それはすなわち、アルトリッツ国及びガドンが筆頭を務める鍛冶ギルド全体を敵に回すと同義である。名のある者なら、そんな馬鹿なことはしないだろうし、盗賊ごときでは手も出せないだろう。
「うーん。何がいいかな」
ラルカはまだ名前を考えているようだ。ふと外を見ると、すでに暗くなり始めていた。
「あ、もうこんな時間だ。おじいちゃん、ライラのお父さんの斧、返しに行ってくるね」
「おお、そうか。すまんすまん、楽しくてつい引き留めてしまったの」
「じゃ、また来るね。名前決まったらおじいちゃんにも教えるね。バイバイ」
「本当に、お世話になりました」
ラルカとライラが出発した。ガドンは二人が去った後、ライラの今後に幸あらんことを、ドワーフが信奉する神アイゼンに祈りをささげた。
「な、なんだこれは」
ジークとヒルダの墓に来たライラが驚きの声を上げた。以前にガイアが祝福をした時よりさらに多くの色とりどりの花が咲き乱れ、墓石は磨かれたように美しくなっていた。
「ガイアに祝福してもらったからだね。この地は穢れから守られるから、花は枯れないし、汚れも付かなくなるよ」
こともなげにラルカが言う。
「お前は、本当に・・・」
何度礼を言えばいいのだろう。どれだけの恩を返せばいいのだろう。ライラが言葉に詰まる。
「ね、お父さんに武器返そうよ」
ラルカの声にライラがはっとした。少し迷って、二人の墓石の中央、やや上にそっと置いた。すると途端、木の根が大斧の根元に守るように巻き付いた。
「木の精霊も祝福してくれるって」
ライラは二人の前で祈りをささげた。今まで起こったことを報告し、ラルカやガドンに対する感謝、今後必ず立派な戦士になるという決意、そして両親への限りない愛を報告した。その隣で、ラルカも以前の誓いを決して破らないと改めて報告した。やがて二人ほぼ同時に立ち上がり、ラルカが楽園への扉を開いた。
「さ、ライラ、そろそろ帰らないと、寮母さんに怒られるよ」
「ラルカ」
その声に、ラルカが振り向く。ライラは新しい斧を手にし、ラルカを真剣な表情で見つめていた。
「わたしは、お前にどれだけ助けられたのだろう。この恩は、一生かけても返しきれるものじゃない」
「いいよ、友達だもん」
ラルカがにっこり笑った。ライラも笑った。
「ありがとう。だが、わたしは弱い。このままでは、この武器にも不相応だし、お前の隣に立つ資格なんてない」
ラルカが何か言おうとすると、ライラがそれを手で制した。
「だから、わたしはもっともっと強くなる。この武器にふさわしくなるように。お前の隣に立って戦えるように。だから、頼む。わたしに、修行をつけてくれないか」
ライラがラルカをまっすぐ見つめた。
「もちろん、僕で良ければ。一緒に強くなろう」
「ありがとう」
ライラが微笑んだ。空はいつの間にかすっかり暗くなっていた。桃色の月が姿を現し、雲の隙間から光がさす。夜の闇を切り裂いて、彼女の美しい姿を照らす。その手には、見守るように斧が光っていた。
「・・・月光」
「え?」
「月光竜胆。ライラの武器の名前、月光竜胆ってどうかな」
「月光竜胆・・・」
ライラはその名を反復した。その時手にしていた斧が喜んだような気がした。
「そうだな。お前の名前は、月光竜胆。よろしくな」
ライラは月光竜胆を月へと掲げる。その姿はまさに月の女神そのものだった。
「ありがとう。ラルカ。お前とガドンさんにいただいた月光竜胆、大切にする」
「ふふ、気に入ってもらえたんだ。よかった。そうだ、おじいちゃんから、短剣の名前も付けるように言われていたんだ」
「そうなのか?」
ラルカが短剣の入った箱を取り出した。
「そうだね、これは、桜襲かな」
「よろしく、桜襲」
ライラは桜襲と名付けられた短剣を手にした。初めて手にするタイプの武器だったが、なぜか違和感を感じなかった。
「じゃ、行こうか」
ラルカが楽園への扉へ入り、ライラも続いた。目の前には寮があり、その入り口にゴンゾたちが待っていた。遅い帰りの二人を心配していたらしい。ラルカが手をふり、駆けだそうとすると、ライラがふと疑問に思ったことを尋ねた。
「なあ、どうして名前、急に思いついたんだ?」
「ふふ、なーいしょ」
「なんだ、教えてくれてもいいだろ」
ライラが訪ねるが、ラルカは笑うだけで答えず、ゴンゾたちのもとへ走って行った。ラルカはまだ思春期になったばかりである。月の光に照らされたライラが、あまりにも綺麗だったからなんて、恥ずかしくて言えなかったのだ。
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