少年、少女と一緒に祖父へ再び会いに行く②
「おおラルカよ。お嬢さんも。よく来てくれた」
十日後、ラルカとライラは再びガドンのもとを訪れていた。
「おじいちゃん、ライラの武器、できた?」
「エエ。モチロンデスヨ。ラルカサン」
ガドンがタロス77号を蹴り飛ばし、奥から完成したライラの武器を持ってきた。
「これがお嬢さんの武器じゃ」
「こ、これが、わたしの・・・」
ライラの目が輝いている。ガドン作の武器はすべての戦士にとって憧れだ。ライラももちろん例外ではない。ガドンの作ったそれは、以前ライラが持っていた武器と同じ大斧だ。だが輝きは鉄製のそれとは比べ物にならない。金色に光るそれは美術品としても超一級品に見えた。
「さ、受け取ってくだされ」
恐る恐るライラはその武器を手にした。
(!!)
瞬間、ライラは驚きのあまりそれを落としそうになった。持った途端手に吸い付き、自身と一体化したと錯覚した。
(なんて、雄大な)
持った途端に伝わる武器の器にライラは震撼した。造られたばかりであるにもかかわらず歴戦の猛者が持つ風格がある。刃文は大きく波打ち、自身が持つ桁外れの殺傷能力を隠すような妖しい美しさを見せていた。
(恐ろしいほど、強い)
持つ手が震える。本当に自分が持っていていいのだろうか、とすら思った。
「ねえ、おじいちゃん。配合比はどうしたの?」
「うむ、主となるのはオリハルコンじゃが、お主の臥龍に比べ、アダマンタイトの量を多くし、ミスリルは使わなんだ。刀と違いって切る、よりは断つ武器だからの。重量は重くなるが、強度は上がる。あとヒヒイロカネは少なめじゃ。魔力親和性はやや低くなるが、雷魔法はもともとオリハルコンと相性がいいからな、それで十分じゃろ」
ガドンが長い髭をなでながら解説する。自慢気なその様子を見て、自信作であることは明白だった。
「本当に、いただいてよろしいのですか」
「それはすでにお嬢さんの物じゃ。お嬢さんが持った途端、わしのことなど忘れたようじゃ。お嬢さんが受け取らんと、それに叱られるわい」
上機嫌にガドンが笑った。
「ありがとうございます」
ライラが深く頭を下げた。ガドンはそんな彼女を優しい目で見ていた。
「ね、ね、試し切りしてみようよ」
ラルカがはしゃいでいる。どうやらラルカもその武器が気になっているようだ。
「ほほ、そうじゃの。さて、どれがいいかのう」
ガドンが工房内を探している。
「お、これがいいじゃろ」
やがて一つの兜を持ってきた。
「これ、壊しちゃっていいの」
「かまわん、練習用に作った駄作だからの。銘も入っていない失敗作じゃ」
(・・・これが?)
ライラが今まで見た兜の中で、間違いなく一番の兜であった。仮に街の武具店に置かれていたら、どのくらいの値がつけられるのか想像もできない。
「さ、お嬢さんやってみなさい」
「は、はい」
ライラが闘気を放ち、武器にも闘気を込める。すると武器が小さく震えた。早く戦わせろ、と言う雄たけびが聞こえた気がした。
「はっ」
その言葉に従い、ライラが勢いよく兜に振り下ろした。
「えっ」
兜は真っ二つになっていた。今切ったのは兜である。リンゴなどではない。にもかかわらず、まるで切った感覚すらない。兜はまるで初めからそうであったように完全に真っ二つになっていた。思わず武器の刃を見たが、刃こぼれ一つない。
「ふむ、われながら見事な出来じゃ。なまくらとはいえアダマンタイト製の兜を真っ二つとは」
「あ、アダマンタイト製!?」
そんなものを試し切りに使うな、と危うく叫びそうになった。
「すごいすごい、僕の臥龍とどっちがすごいかな」
「切れ味では臥龍じゃろ、じゃが強度はお嬢さんのが上じゃな。まあ、刀と斧だから当然じゃが」
ガドンとラルカの会話を聞き、ライラはとんでもないものをもらってしまった、と震えていた。
「ガドンさん」
ライラが決意を込めた目でガドンを見つめた。
「今の私の実力では、この武器にふさわしくありません。なので、今から必死に修行します。そして、いつの日か、この武器にふさわしい戦士になってみせます」
頭を下げる。ガドンは嬉しそうに頷いた。
(やはり、このお嬢さんに渡して正解じゃった)
返す、と言ったら叱ってやらねばならんと思っていたが、杞憂に済んで安心した。
「ね、おじいちゃん、他に頼んでおいたのはできた?」
ラルカが目をくりくりと輝かせる。おもちゃをもらう前の幼子のようだ。
「おお、そうじゃそうじゃ。もちろんできておるよ」
ガドンがまた工房の奥に入って、今度は一つの箱を持ってきた。
「これじゃ。開けてみなさい」
ライラが開けると、
「これは・・・ナイフ?」
入っていたのは赤みがかった十数本のナイフだった。形状から判断するに投擲用だろうか。ライラはけげんな表情を浮かべた
「そう、これこれ。僕が使ってたやつとおんなじ感じ?」
「あれと比べると、こっちのほうは切れ味より魔力親和性を重視しておるがの」
十日前にラルカがガドンに内緒で頼んでいたのはこれか、とライラは思った。
「だがラルカ。わたしはナイフなんて使ったことないぞ」
「ふふふ、わかってるよ。これ、あとで使い方教えるから。きっとびっくりするよ?」
ラルカはちっちっちっ、と指を振る。本人はかっこつけているつもりらしい。ガドンは微笑ましい気持ちで見ていた。
「これも、いただいていいのですか」
「もちろんじゃ」
ライラは再び頭を下げる。するとガドンが三度奥へと消え、戻ってきた。持ってきたのは、折れたジークの大斧だった。ガドンが修復すると預かっていたのだ。
「強度は戻らんが、形だけでも直しておいた。さ、元の持ち主に返してやりなさい」
「はい、ありがとうございます」
ライラが受け取る。と、ライラが違和感を感じた。誰も気づかないはずの小さな違和感だが、長年共に戦った相棒である。ほんのわずかだが、短くなっている。
「お嬢さん、その大斧じゃがの、悪いが一部削らせてもらった」
「?はあ・・・」
「その一部は、先ほど渡した斧の、刺先に使わせてもらった」
「えっ」
ライラがガドンからもらった斧の刺先を見た。確かにそこだけ、鉄製になっている。
「普段はこんなことはしないのじゃが、あまりにそれが、お嬢さんを心配しておっての。その魂の一部だけでも、新たな武器に引き継いでもろうたのじゃ」
「あ、あ、ああ・・・」
ライラの声が震える。
「勝手なことをして、すまんかったの」
「本当に、ありがとう、ございます・・・」
ライラは再び頭を下げた。涙が頬を伝う。自分はこんなに泣き虫なのか、と思た。
「ほほ、礼を言うのはこちらのほうじゃ。お嬢さんのおかげで、久しぶりに良い仕事ができた」
ガドンのこの言葉はライラを慰めるためだけではなく、嘘偽りない本心であった。ガドンが最後に手がけた武具はラルカの臥龍と鳳雛であり、それ以降武具を作りたいと思う相手には巡り合っていなかった。ライラの武器は臥龍鳳雛に負けない会心の作であり、自身の仕事に久しぶりに満足できた。
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