少年、誓う
「ねえ、ライラ」
ラルカは何かを言おうとし、一瞬ためらった。しかし、こぶしを握り締め、決意を決めた。
「僕の、お父さんとお母さんのことなんだけど」
「あ、ああ、確か、父が義勇士で、母が聖輪教の聖職者だって言ってたよな」
学園に入学した日にそう聞いたはずだ、とライラが思い出した。
「僕のお父さんとお母さんね、剣聖と聖女なんだ」
「・・・・」
ライラは耳に入ってきた言葉の意味が一瞬理解できなかった。
「・・・剣聖?聖女?」
「うん、僕のお父さんの名前は、イズミ。お母さんは、エリステル。七星使徒で、剣聖と聖女って呼ばれてる」
「な、なにっ!!?」
確かに剣聖と聖女は夫婦になったのは知っている。世界的なニュースだった、知らない人間を探すほうが難しい。だが、二人に子供がいるなんて聞いたことがない。
「なんか、二人に子供がいるって知られるのが、あんまりよくないんだって。だから、僕が二人の子供ってことは隠しとけって、えらい人たちが決めたらしいんだ」
ラルカは少しだけそれが悲しかった。
「ごめん、今まで黙ってて」
ラルカはぺこりと頭を下げた。
「い、いや」
ライラはまだ混乱していた。しかし、ラルカの信じがたい実力も、あの二人の子供と言うのであれば、逆に納得できる。それに、聖女は確か美しい桃色の髪が特徴だった。
(桃色の髪って、かなり珍しいもんな)
ラルカの風に乗ってなびく髪を見ながら、ライラは徐々に気持ちを落ち着けた。
「そうか、そうだったのか。でも、いいのか、わたしに話して」
「うん、ライラも、大切な話をしてくれたから。僕も、ライラに大切な話をしたかったんだ」
「・・・そうか」
ライラの胸に甘酸っぱい感覚が押し寄せた。
「わかった。このことは誰にも言わない。安心してくれ」
「うん、ありがとう。このことを知ってるのは学園ではヨミお姉ちゃんだけだから。ゴンちゃんにも言ってないんだ」
「そうか、学長も知っているのか」
そういえば七星使徒だもんな、冥界にいっしょに行ったパーティだ、知らないわけはないか、と思っていると、ある事に気が付いた。
「と、言うことは、お前は冥界で産まれたのか?」
「うん」
「ちょ、ちょっとまて、冥界で冥王を倒したとき、お前も一緒に戦ったのか!?」
「うん」
あっさりとラルカは肯定したが、これが公表されれば世界は大きく揺れる、とライラは理解した。七星使徒は現在、一人一人が大国の王を超える影響力を持つ。その理由の一つは世界滅亡の危機から救ったという功績に他ならない。その英雄が、もう一人追加されるのだ。しかもラルカは聖女の実子である。一部の権力者にとっては目の上のたん瘤に違いないだろう。
(たしかに、隠しておきたい理由もわかる)
ライラがちらりとラルカを見た。ラルカも、ライラを見た。
「ライラ。ライラの話も、僕の話も、二人だけの秘密にしない?」
「ああ、そうだな」
そう答えた直後、ライラの頬が赤くなった。
(こ、これじゃ、まるで――)
ラルカはそんなライラに気付かず、ライラの横を通り過ぎると、ライラの両親の墓の前に膝をついた。
「はじめまして、ライラのお父さんとお母さん。僕の名前は、ラルカと申します」
ライラはその声に驚き、振り返った。
「今までライラに対して、僕のお父さんとお母さんのことを黙っていたことを、お詫びいたします」
ラルカが深く頭を下げた。いつも天真爛漫なラルカとは思えない、丁寧な言葉遣いだった。
「お二人のこと、ライラから聞きました。人々を守り、戦ったお二人のことを、心から尊敬いたします。そのお二人に、ここで誓います」
ラルカが胸に手をあてる。
「僕は、ライラを絶対に裏切りません。たとえどんな事があっても、絶対に、ライラを裏切ることはしません」
ライラの手が震える。
「ライラが悲しい時は、側に寄り添い、励まします。ライラが苦しい時は、いつでもどこでも駆けつけます。ライラの身が危ない時は、命がけで守ります」
ライラの目頭が熱くなる。
「そして、僕の一生をかけて、ライラを必ず幸せにします」
ライラの視界がにじむ。
「だってライラは、僕の大切な、大切な、友達だから」
ライラの喉から、嗚咽が漏れる。
「僕の両親の名にかけて、ここに誓います。だから、安心してください」
ライラの両目から、大粒の涙が流れる。もう決して涙は見せない、と誓った五年前のあの日以来。あの日と同じように、決して止まることはないと思わせるほど、涙を流した。
(熱い)
涙とは、こんなに熱いものだっただろうか、と思った。五年前の涙は、氷のように冷たく、どんなに泣いても悲しみは大きくなるばかりだった。しかし今は、悲しみを塗り替えてくれるような、温かい涙だった。ライラは声を上げ泣き続けた。膝から崩れ落ち、地面に突っ伏して泣き続けた。ラルカはライラを抱きしめた。ラルカも泣いていたが、ライラは気付かなかった。ライラは小さいラルカの手が、父と同じように、とても大きく感じた。母と同じように、とても暖かく感じた。
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