少年、少女に祝福を
「それからわたしは、人を助けることをしないと決めた。とうさんとかあさんは、人を助けても、誰も助けてはくれなかったから」
ラルカは、ライラの話を黙って聞いていた。
「泣くのもやめた。泣いても、悲しみが癒えることもなかったから。いや、それどころかより一層、強く・・・」
ライラはそれ以降の言葉を話せず、唇をかみしめた。ライラは話している間、一度もラルカの方を振り返らなかった。
「そのかわり、誰の助けもいらない。一人で生きていく。そう決めた」
「ねえ、ライラはなんで、学園に入ろうと決めたの」
ライラの話が始まってから無言だったラルカが、初めて口を開いた。
「騎士になるためだ」
「騎士?」
「この国では、ダークエルフは騎士団に入れない。だが、学園を卒業すれば別だ。学園の推薦で、無条件で騎士団に入れる」
「騎士になって、何をするの」
「あの司教と領主を、牢に入れてやる」
ライラの声に怒気がこもった。
「ギルドには、国家の重鎮や教会に対しての捜査権がない。だが、騎士になれば誰であろうと調べることができる。あいつらがやってきた悪事を白日の下にさらし、牢にぶち込んでやる。たとえ、何十年かかろうと」
「そっか」
ラルカが少し寂しそうな声で返事をした。
「そういえば、ギルド長のフランさんとはそれ以来会ってないの?」
「ああ、今どこにいるかもわからない。後で知ったんだが、あの事件の直後にギルドをやめて、街を出たらしい。でも、いつだったかとうさんとかあさんの墓の前に来たら、花が置いてあった。たぶん、あの人だと思う。どうやってここを知ったのかはわからないが」
ライラが墓の石を優しくなでた。ふと、ライラが自嘲気味に笑った。
「わたしはあれから何度もここに来たんだが、何に祈っていたのだろうな。神を信じないわたしが」
「・・・」
「結局は、自己満足だったんだな。とうさんも、かあさんも、こんなところに埋葬して、わたしを恨んでいるかもな」
寂しそうにライラは笑った。するとラルカが、
「ガイア、来て」
大地の霊長精霊ガイアが顕現する。
「?」
ライラが初めてラルカの方を振り向いた。
「ガイア、この地に祝福を」
ガイアはラルカの使役精霊である。使役精霊は契約精霊とは異なり、関係は対等ではない。だがラルカは今までガイアに頼むときは彼女に対し、お願い、と言う形をとっていた。それはラルカのガイアに対する親愛の気持ちからである。しかし今回は有無を言わさぬ命令のような言い方をした。まるで、異論は認めない、とでも言うような、強い言い方であった。ガイアは両手を大きく広げ、この丘全体に自身のマナを振りまいた。
「こ、これは」
瞬間、丘全体に歓喜が充満した。邪悪な魔物は一瞬で消失し、木々が若さを取り戻した。色とりどりの花が開き、そこに誘われるように小さく美しい蝶型の魔物がひらひらと飛んでいる。雲の隙間から日の光が差し込み、ジークとヒルダの墓石を照らす。雲さえも、ガイアの威光を恐れた。
「い、今、何をしたんだ?」
「ガイアに、祝福をしてもらったんだ。精霊は、その属性に対して祝福をすることができるの」
精霊が祝福をされたものは、穢れから守られるようになる。だがガイアはただの精霊ではない。この世界でガイアより上位の存在は、現時点で冥王、精霊王、竜王のみである。この丘に邪悪な魔物は住み着くことはできないし、悪意を持った人間が入ろうとすれば排除される。大地のみではなく木々、川の水、空気も清浄を保たれる。ジークとヒルダの墓石は決して朽ちず、汚れもしない。また地の叡智精霊が墓守としてこの地を守る。この効果が、少なくとも数百年は続く。
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