少年、少女の悲しみ、苦しみ、痛みを知る⑤
「一体、それはどういうことか!」
ギルド長フランの怒声が、館に響いた。それを涼しい顔で領主ウントは聞き流している。隣りには、司教ブラバドもいた。
「ジークとヒルダの遺体の埋葬を許可しないだと!?それがこの街を守った英雄に対する仕打ちか!納得のいく理由をお聞かせ願おう!」
義勇士達も怒りに満ちた顔で領主をにらみつけている。やれやれ、と言った表情で領主が口を開いた。
「わしのいない間に勝手に館を占拠したのだ。謀反人をこの街に埋葬するわけにはいかぬ」
「占拠だと!?住民を非難させるのは当たり前だろう!!」
「それを判断するのは、領主である私だ」
「真っ先に逃げだしたのは何処のどいつだ!!」
「人聞きの悪いことを言わないでいただこう。私は隣りの街に援軍を呼びに行ったのだ。使者として司教殿にも同行いただいた。だが魔物が消えたのを見て、急いで民を守るために引き返したのだ」
「白々しい嘘をつくな!だいたい、この館に避難させるよう指示を出したのは、この私だ!処分するなら、ギルド支部長の私を処分してもらおう!!」
ふん、と領主は鼻を鳴らした。
「何を言おうが結論は変わらん。それに、ダークエルフの方は異教徒ではないか。異教徒をこの街に住まわせてやっただけでも感謝してほしいくらいだ。あ、そうそう、その娘は追放処分とし、命だけは助けてやろう」
「な――」
フランは怒りのあまり、剣を抜きかけたが、歯を食いしばって耐えた。
「良いか、これは命令ぞ」
領主は鼻を鳴らし、その場を立ち去った。
「ね、お願いしますしきょうさま。とうさんと、かあさんを、お墓に入れてください」
ライラは、頭を床に付けて、司教に頼み込んでいる。司教ブラバドは聞こえないはずがないにもかかわらず、無視している。
「わたしは、このまちを出て行ってもかまいません。だから、とうさんと、かあさんを、りっぱなお墓に入れてください。おねがいします」
「司教殿!!」
殺意さえ込めた声を出すフランに、めんどくさそうな顔をした司教はやっとライラのほうを向いた。
「下賤なるダークエルフの子よ」
仮にも聖職者であるブラバドだが、顔も声も、品性も女衒のほうがあっていると言える。
「神は正しき人に慈悲を下さいます。同じように、罪ある者には罰を与えるのです。お前たちは穢らわしい種族だから、神が罰をお与えになったのです」
「なんで、とうさん、かあさんが、けがわらしいんですか。このまちのひとたちをまもったのに」
「全ては、神のお導きなのです」
(何が神だ、貴様の都合が悪いことをすべて神のせいにするんじゃない!)
フランは血が出るほど拳を握り締めている。
「では、どうすれば、とうさん、かあさんをお墓に入れてくれるんですか」
「お前と母は異教徒でしょう。夫たるその男も同罪です」
「じゃあ、聖輪教にはいります。だから、とうさん、かあさんを、はやく、弔ってください」
ライラの両目はすでに真っ赤にはれ上がっている。だが、どれだけ泣いても涙は枯れることはなかった。
「そうですか、それでは、50ユリウスの寄付を」
「な、なんだと!?なぜ、そんな金が必要なんだ!!」
激昂するフランに、司教はさげすむような顔を向けた。
「不浄なる異教徒を敬虔な聖輪教徒にするには、色々大変なのですよ。これでも、慈悲を込めてだいぶ安くしているのですよ?」
「い、いい加減に・・・」
「おかね、これだけあります。これではだめですか」
ライラはポケットから銅貨を十枚ほど出した。生前にヒルダからもらっていたお小遣いだった。
「話になりませんな。よいか、異教徒。敬虔な聖輪教であれば、自然と富が集まるのだ。これは神が愛するものを幸福へと導くからである。お前とお前の親が貧しいのは、異教徒だからだ。だから神は罰を与えたのだ」
「ならば、その金は、私が払おう」
フランの言葉に、さすがの司教も驚いた顔を見せた。しかし、すぐに鼻で笑った。
(偽善者めが)
「それはできぬ。改宗のための資金は、本人が出さねばならぬのだ。だいたい今まで異教徒だった分際で、埋葬がしたいから今改宗するなど、都合がいい話を思わんかね」
(よく言う、埋葬する権限を自分たちだけの特権にしたのは何処のどいつだ!)
フランは怒鳴りつけたい感情を押さえつけ、唇をかみしめた。
「それでは私はこれで失礼する。これでも忙しい身でな」
「待ってもらおう司教殿。ジークとヒルダがためておいた金と、家がある。その金で足りるはずだ」
踵を返した司教を、フランが呼び止めた。丁寧な言い方だが、声色に殺意がこもっていた。
「それは不可能だろう。二人の財産は、不法占拠の罰として、領主様が全て没収されました。そうだ、その銅貨も没収しておきなさい」
「き、きさ・・・」
フランはとうとう剣に手をかけた。慌てて隣りにいた義勇士に抑えられる。
「ふん、下賤な異教徒の仲間はやはり野蛮だな。もう話は聞かん、連れていけ」
騎士の一人がライラを羽交い絞めにした。他の騎士たちが、ジークとヒルダの遺体を物を扱うように引きずっていく。
「やめて!とうさんと、かあさんに、ひどいことしないで!」
「うるせえぞガキが、もうとっくに死んじまってんだろうが」
「ね、たすけて、だれか、たすけてよ!」
フランは拳を強く握りしめた。指の骨が折れる音がする。だが、それでもこの胸の痛みよりはましに感じた。憎しみは領主や司教ではなく、ライラを助けられない自身に向けられた。自身を殺したいほどに。だが、ライラには謝らなかった。自分にそんな資格はない、自分は許される人間ではない、そう思ったから。騎士たちはライラを引きずるように館の外に連れて行った。フランは拳を何度も床にたたきつけた。血しぶきが飛び、指の骨が砕け、拳が変形した。周りが羽交い絞めにして無理やり止めるまで、何度もたたき続けた。
「たすけて、トーマスおじさん、アマンダおばさん」
街中に出ると、ジークたちに助けて貰った夫婦が目に入った。しかし二人とも、下を向いて、気付かないふりをしている。
「だれか、とうさんと、かあさんを、たすけてよ。ね、おねがい、たすけてよ」
この住人たちはジークとヒルダに助けられたものは大勢いた。しかしライラを助けるものは、誰もいなかった。
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