少年、少女の悲しみ、苦しみ、痛みを知る④
「とうさん、かあさん、起きて、起きてよ」
ライラが倒れたジークとヒルダの体をゆする。だが、ジークもヒルダも動く様子がない。
「けけけ、こいつ、負けるとわかって挑んできたようだなな」
「ひひひ、バカな奴らだぞ。時間稼ぎのつもりだったようだが、役立たずの奴らだったぞ」
二体の魔物には傷一つない。対してジークは胸の中央に大きな穴が開いており、ヒルダの腹からは握りこぶしほどの臓器が露出していた。二人の体から、バケツでぶちまけたと思うほどの血が流れ出ていた。
「とうさん、かあさん、ねえ、起きてよ」
ライラの目から涙が流れる。だが、それでも二人は起きない。
「けけけ、こいつらの子供か、子供は良いな、旨そうだだ」
「ひひひ、わしは優しいんだぞ。今すぐ親と同じようにしてやるぞ」
二体の魔物がライラに近づいていく。住民たちは怯えたように震えている。
「何をしている、貴様らぁ!」
そこに、ギルド長フランの怒声が響いた。二体の魔物が館の入り口の方を振り向くと、義勇士たちが集まっていた。義勇士たちも初めて見る魔物に一瞬怯えた表情を見せるも、ジークとライラの姿を見て、それを怒りの表情に変えた。
「けけけ、そうか、こいつらを待っていたのかか」
「ひひひ、こんな雑魚ども、何のたしにもならないぞ」
二体の魔物がギルド長達の方をふりむき、ゆっくりと歩きだした。
「ん」
その時、猿に似た魔物が止まった。
「どうした?」
「いや、どうやら嗅ぎつけられたようだ。また飛ばねばならんなな」
「なんだ、せっかくいいところだったぞ」
「しかたないだろう。はやく逃げようう」
そう言い残し、二体の魔物は壊れた壁の奥に消えていった。
「逃げてんじゃねえぞ、このバケモンが!」
「待て、追うな!二人の治療が先だ!」
フランの言葉に義勇士達は慌ててライラのもとにやってきた。
「ライラちゃん!」
フランがライラに声をかけるが、ライラは返事をせず、ただそこに倒れている、ジークとヒルダの体を揺さぶっている。
「くっ」
二人の傷を見て、義勇士たちが悲痛の声を上げる。この中に回復魔法を使用できるものはいないし、仮にいたとしても助からないだろう。それを確信するほどの大けがであった。
「とうさん、かあさん、起きて、またおはようって言って。またわたしを抱きしめて」
「・・・うう」
「・・・ああ」
その時、ジークとヒルダが一瞬覚醒した。ライラの目が大きく見開いた。
「とうさん!かあさん!」
気が付いたジークとヒルダだったが、自身の命がすでに尽きかけていることを知った。ここで覚醒したのは、神の慈悲なのだろうか。子を思う親の愛が起こした奇跡なのだろうか。それとも――
「ライラ、友達を作れよ」
「ライラ、幸せにね」
二人は最後の力を振り絞り、その言葉を言い終わると同時に、息を引き取った。その顔は穏やかで、先ほどまで戦っていた者とは信じられない、とフランは思った。
「とうさん!かあさん!うわーん!!」
ライラの悲しみの鳴き声が屋敷にこだました。住民たちも義勇士達も、かける言葉が見つからなかった。ライラはずっと父と母の名を呼び続けた。だが、どんなにライラが叫んでも、二人は二度と返事をすることはなかった。
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