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一度世界を救った少年は、再び世界を救う!?  作者: 長月楠


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少年、少女の悲しみ、苦しみ、痛みを知る③

「とうさん、かあさん、大丈夫だよね?わたしたち、助かるよね?」

「ああ、もちろんだ。とうさんを信じろ」

 今にも泣きだしそうなライラを慰めながら、ジークは領主の館でほっと一息ついた。小さな町に見合わぬ巨大な館は、非戦闘員を非難させるにはちょうどよかった。

「ジーク、とりあえず女性と子供たち、それからお年寄りは全員避難させた。男たちはどうする?」

 ヒルダも疲労が隠せない様子で、額の汗をぬぐっている。

「ああ、いくらこの館が大きいとはいえ、男たちも含めると全員は難しいな。ギルドにも集まってもらおう」

「ああ、そうだな――」

 その時、突然轟音が鳴り響き、館の壁が崩れた。

「なに!?」

 一瞬混乱するが、二人とも相当な手練れである。一瞬で落ち着きを取り戻し、非戦闘員を奥へと誘導し、臨戦態勢を整えた。

「けけけ、こんなところにいたかか」

「ひひひ、逃げても無駄だぞ、何処に行ってもわかるんだぞ」

 その二体の魔物を見た時、さすがのジークも寒気がした。今まで見たこともない、だからではない。今まで見た魔物よりはるかに強い、だからでもない。もっと単純に、その醜悪な見た目に生理的嫌悪感を感じずにはいられなかったからだ。

(な、なんだ、こいつらは)

 一体は猿に似た魔物だが、本来あるはずの目がつぶれている。そのかわりに額にある目がぎょろぎょろと獲物を探すように動いている。八本ある腕は異常に細く、そして長い。下半身を見ると足がなく、その腕が足代わりにもなっているようだ。

 もう一体は馬の体をした魔物だ。だが頭は人間のそれに近く、長い髭をたらし、下卑た笑みを浮かべている。よく見ると蹄があるはずの足の先端が、手のひらになっていた。

(人型でもないのに、言語を操るだと!?しかも、これほどまでに流暢な言葉を話す魔物など、聞いたことがない!)

 人間の言葉を話す魔物は意外と多い。しかしそのほとんどは人型であり、ゴブリンやオークなどは単純な言葉しか解さない。比較的高い知能を誇るオーガ族でも、人間と同等の言語を操るのは、最上位のロードぐらいだ。

「けけけ、混乱しているな。なぜこんなところにいるんだってて」

「ひひひ、子供がいっぱいいるぞ。あんしんするんだぞ。みいんな、ここで死ぬんだぞ」

「死ぬのは、お前らだ!!」

 ヒルダが怒りの表情で、マナを解き放った。

 ――――触れることなかれ。我は戦乙女、主神の代行者なり

接触禁止の紫衣(バイオレットドレス)!」

 ヒルダの独自雷魔法、接触禁止の紫衣(バイオレットドレス)。ヒルダ最強の呪文である。全身に帯電したマナを張り巡らせ、一瞬でも触れると強力な電撃が流れる。村焼き程度なら、一撃で倒すほどの威力を誇る。

「けけけ、その程度か。それが奥の手かか」

 しかし、猿に似た魔物は余裕をもって笑っていた。

「ひひひ、ならお前も、死ぬしかないぞ」

「黙れ!その薄汚え面!今すぐぶった切ってやるからよ!」

 ジークが赤い闘気を解き放つ。大斧に闘気を集中させる。周囲の空気が震えるほどに強力な闘気だ。が、二体の魔物はなおも笑ったままだ。

「行くぞ!ヒルダ!」

「おうよ!ジーク!」



「終わったな」

 東門を守っていたギルド長が、安堵の表情を浮かべた。みな疲弊しきっているが、何とか全ての魔物を撃退することができた。

「しかし、一体なぜ突然、それもこんな急に魔物が現れたんでしょう」

「わからんが、もちろん調査は必要だ。王都の支部にも報告は出しておく」

 そう言うと、フランが腰を下ろした。

「ふう、さすがに疲れた。みんなも、苦労をかけたな」

 空気が弛緩し、穏やかな空気になる。だがそこに、水を差すものがやってきた。

「お、おい、ギルド長。領主の奴、戻ってきやがったぞ!」

「なに?」

 防壁から眺めると、遠くから豪華な馬車がもったいぶったように近づいてくる。

「どの面下げて戻ってきやがったんだ、クズがよ」

 義勇士達が口々に文句を言う。フランは黙っているが、怒りがないわけはない。むしろ誰よりも怒りを感じているのは彼だろう。するといやなことは重なるもので、門番をしていた騎士たちも戻ってきた。

「どけ、義勇士ども。ここはわれらの領分だ。お前らのような下賤の者のいる場所ではない」

「なんだとこら!!魔物が現れた時真っ先に逃げだした弱虫が、礼を言うのが筋だろうが!!」

 一触即発の空気になる。その間に立ったのはギルド長だった。

「お前か。この野蛮人どもを黙らせろ。我らは騎士ぞ。平民風情がのぼせ上がるでない」

「これは失礼した、騎士殿。みな、騎士と言えば民を守るべく死地に赴き勇敢に戦うものと思っていたのでな。まさか民を見捨てて負け犬のように逃げ出すのが騎士の仕事とは思ってもみなかったのだ」

 義勇士たちが大笑いする。

「き、貴様、愚弄するか!」

「あ、これは失礼した。確かに、負け犬は一応戦ってはいるか。貴殿たちは戦わずして逃げ出したのだったな。負け犬には申し訳ないことを言ったな」

「ぐ、ぐぐ・・・」

 では、とフランが防壁から降り、義勇士たちも後に続いた。

(さ、あとは領主の奴に対して、館を使ったことに対する言い訳を考えねばな)

 フランは憂鬱な表情で、ジークたちの居る領主の館に向かった。

お読みいただきまして、ありがとうございます。

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