少年、少女の悲しみ、苦しみ、痛みを知る②
「見たことない魔物?」
翌日、ギルドにやってきたジークとヒルダは、義勇士たちの気になる噂話を耳にしていた。
「ああ、このあたりに生息していなはずの魔物が、ここ数日でもう十体以上も討伐されてるらしい」
顔なじみの義勇士の話に、ジークもヒルダも眉をひそめた。
「災禍規模は?」
「一番強いやつでも猛者切りぐらいだから、そこまで高くはないんだが」
「気味が悪いな」
「ああ。それとジーク、お前あんまり安い金額で依頼受けないほうがいいぞ」
「どうしてだ?」
「住民の間で人気があるのが、領主にとっては気に入らないらしい。最近騎士どももお前の周りを嗅ぎまわっているようだ。教会と領主はグルだし、あんまり目立たないほうがいいぞ」
「ああ、わかってる。情報感謝するぜ」
ジークとヒルダはその義勇士と別れると、依頼を受けるべく受付へと向かった。
その日の魔物討伐の依頼は、いつもと変わらず平穏だった。噂の見たことない魔物も出現せず、肩透かしを食らったような二人が戻ると、何やら様子がおかしい。街の住人があちこち走り回り、その顔は恐怖におびえている。
「なんだ!?何が起きてる!?」
二人が街の住民に話を聞こうにも、皆混乱してそれどころではない。すると街の東から、轟音が聞こえた。
「ヒルダ、行くぞ!」
「ああ!」
二人は東の門に向かって走り出した。
「な、なんだこれは!」
経験豊富なジークでさえ、その光景には驚きを隠せなかった。街の東門前に魔物が押し寄せている。それほど数は多くはないが、人の数倍の巨体を誇るものばかりだ。災禍規模も村焼き以上だろう。しかもほとんどの魔物が初めて見るものだ。少なくともジークが知る限り、このあたりにいる魔物ではない。防壁の上から義勇士たちが弓や魔法で必死に防戦しているが、やや押されている。
「あ、おいジーク、お前も手伝ってくれ!」
弓を撃っていた義勇士が壁の上から大声で助けを求めた。
「どうした!何があった!」
「わからん、突然こいつら湧いて出やがったんだ!」
「突然湧いた!?そんなわけねえだろう!」
「そんなわけあるから困ってんだろうが!」
「何言い争いしてんだ!!それどころじゃないだろ!」
ヒルダの言葉でいったん二人は冷静になる。
「おい、騎士どもは何処に行ったんだ?」
その言葉に別の義勇士が怒りに満ちた声で怒鳴った。
「逃げやがったよ、あの糞野郎ども!!」
「逃げた!?」
先ほど義勇士が言った通り、何の前触れもなく突然魔物達が現れた。騎士たちはほとんど抵抗せず逃げ出したらしい。
「ジーク、すまない、お前は街の住民を避難させてくれ。ここは俺たちが何とかする」
冷静にジークに依頼したのはこの街のギルド支部長、フランだった。ジークもヒルダも得意なのは近接戦闘なので、今回の防衛には向かないとの判断だった。
「避難って、どこに?」
「領主の館だ。特に女、子供、老人、けが人を優先してくれ」
「しかし、領主がそれを許可するか?」
その問いに、ギルド長フランは歯を食いちぎらんばかりに食いしばった。
「領主ウント様は、街を脱出した。司教ブラバド様とともにな」
「な・・・」
さすがのジークも絶句した。領主はギルドにすべての責任を押し付けるように街の防衛を依頼し、自分と家族、教会の上層部のみで、財産をいっぱい積んだ馬車に乗って我先にと逃げたらしい。
「あの糞領主が!!無能とはおもっていたが、ここまでの下衆とは!!」
ヒルダがつばを吐く。何度も愛人になるように誘われていたヒルダにとって領主は以前から憎悪の対象だった。666日の冬が訪れ、義勇ギルドの筆頭であり、ギルドの盟主である闘神・ジンブを始め、戦闘力のみならジンブに匹敵する剣聖・イズミ、学問ギルド筆頭である魔女・ヨミ、鍛冶ギルドの筆頭の国宝・ガドンが冥府へと姿を消し、ギルドの権力は大きく落とし、各国の貴族たちにいいように扱われることも少なくなかった。
「すまない、ジーク。ここは我らが何とかする。頼んだ」
「ああ、任せておけ」
ジークとヒルダは反転して走り出した。
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