少年、少女の悲しみ、苦しみ、痛みを知る①
翌日、二人は王都から半日ほど歩き、ある小高い丘にやってきた。うっそうと木々が茂り、人の気配は見れない。
「今日は付き合わせてしまってすまない」
「いいよ、ライラと一緒だと楽しいし」
ラルカはにこにこしている。お世辞ではなく、本当に楽しいのだろう。ライラは微笑を浮かべ、丘を登っていく。二人に会話はないが、重い雰囲気はなかった。
「ここだ」
やがて丘の頂上あたりに着いた。若干開かれただけのそこに、人の頭ほどの石が二つ置いてあった。
「ここは?」
「とうさんと、かあさんの、墓だ」
ライラは来る途中に摘んだ花をそれぞれの石の上に置いた。
「ここが・・・」
地面にただ石が置いてあるだけ。正式に弔われていないことは明らかだった。
「雨の日だった」
話し始めたライラの背中を見ながらラルカは、拳を少し握りしめた。
「はは、今日は大物を倒したぞ。久しぶりに肉でも食うか!」
大柄な義勇士の男が大斧を肩に担ぎ、討伐した魔物の首を掲げて豪快に笑っている。本日の戦果が想像より上手くいったのだろう、上機嫌な足取りだ。
「何言ってんだ、ジーク。肉は四日前に食べたばかりだろうが」
並び歩いているのは、気の強そうな顔をした美しい女性のダークエルフだ。あきれたように溜息をついて、あまり贅沢はするな、と指摘した。
「別にいいだろ、ヒルダ。それにあいつも、肉にすると喜ぶからよ」
ジークと呼ばれた人間の義勇士は、ダークエルフの肩を抱いた。
「お、おい、人が見てるだろうが!」
「いいじゃねえか、夫婦が仲いいのは平和な証拠だぜ?」
周囲から冷やかすような口笛がなる。顔なじみの男がおーいジーク、あまり見せつけるなよとヤジを飛ばす。ジークはお前も早くいい女見つけろよ、と軽口を飛ばした。
「こんなに魔物が増えた時代に、何言ってやがんだ」
ヒルダがあきれたようにため息をする。十年前に発生した666日の冬と呼ばれる異変は、七星使徒達により収まり、世界は落ち着きを取り戻しつつあった。しかし依然と比べて魔物は増加し、貧富の差は拡大の一歩をたどり、世界は混沌に包まれたままだった。
「だからこそ、おれたちがいるんじゃねえか、なあ」
「なにがなあだ」
ヒルダが息を吐く。こいつと夫婦になったのも、そういえば666日の冬の時だったな、と思い出した。初めは馬鹿正直な間抜けと思っていたが、知り合うともっと馬鹿正直な奴だった。貧しい人からただのような報酬で依頼を受け、その報酬も受け取らないことも多かった。腕は良いため貴族たちからの引き抜きの声もあったが、そんなことには全く興味を示さず、いつも貧乏だったが、いつも笑っていた。そんなところにひかれたのだろう。
「おーい、ただいま、元気にしてたか?」
ジークが家の扉を開けると、中から小さな影が飛び出してきた。
「おかえり、とうさん、かあさん!」
「ただいま、ライラ」
母に似た美しい銀髪をなびかせて、十歳になったばかりのライラが二人の胸に飛び込んだ。ジークもヒルダも、ライラの顔に頬を摺り寄せている。
「いい子にしてたか?とうさん今日も、でっかい魔物討伐してきたぞ!」
「すごい、とうさんかっこいい!」
自慢の父に抱きついて、ライラが甘える。
「ほら、今から食事にするよ。ジークもライラも手伝いな」
はーいと元気に返事をした似た者親子は、テーブルに皿を並べ始めた。ジークとライラがこの街に拠点を移してから数年がたつが、ライラもこの地がすっかり気に入ったみたいだ。小さくはあるが家も手に入れ、ここに永住するのも悪くない、と思っていた。その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「だれだい?」
「ジークさん、トーマスです」
「おう、入んな」
ドアが開き、三十代ぐらいの男性と、その妻の女性が入ってきた。男性は籠に大盛りの野菜を持っている。
「ジークさん、依頼を受けてもらって、ありがとうございました。あれから畑を荒らす魔物は出なくなりました」
トーマスと言う男が頭を下げる。
「なあに、気にしないでくれ。人助けするのが義勇士ってもんだ」
「これ、お礼です」
トーマスは籠に盛られた野菜を差し出した。ジークとライラが今回の依頼で要求した報酬だった。畑を荒らす魔物の討伐だったが、当然ジークたちにとっては大損の仕事である。
「ジークさんとヒルダさんのおかげで安全になったって、この街のみんなも喜んでます。ここの領主様は、我々庶民のことなんて何とも思っていないようで」
本来なら領主がするべき街周辺の魔物討伐依頼を出し渋っていたため、住民は魔物被害と重税に苦しんでいた。教会に掛け合っても、多額の寄付を求められるばかりで何もしてくれなかった。そこに現れたジークたちは住民たちにとって正義のヒーローだっただろう。
「ありがとう、トーマスおじさん」
ライラが野菜を受け取った。
「ライラちゃん、大きくなったね。お母さんに似た美人になってきたよ」
「うん、ありがとう、アマンダおばさん」
ライラがえへへと笑う。ライラも、住民に慕われている両親を誇りに思っていた。
「そういえばジークさん、この前スラムの子供たちにポーション配ってましたよね。実はそのことで教会が目をつけてるみたいなんです。気を付けてくださいね」
「なあに、あんな腰抜けどもにできるのは文句を言うことだけだ。心配いらねえよ」
「お、おいしそうなトウモロコシだな。よし、今日はコーンスープにするか」
ヒルダが鼻歌を歌いながらトウモロコシの皮をむいた。トーマス達はもう一度頭を下げて帰って行った。
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