少年、祖父に会いに行く②
「ふむ・・・」
ガドンが黙ってそれを見ている。その目は先ほどまでとはまるで違う。ライラは緊張の汗が流れるのを自覚した。ラルカも邪魔をしないように、口を閉ざしている。
「なるほど」
しばらくしてガドンが顔を上げ、ライラを見た。
「これは、元々お嬢さんの物ではなかったね。本来の持ち主は、もうお亡くなりなのじゃな」
ライラが驚く。なぜ、見ただけでそんなことがわかるんだ、とその顔が言っている。
「そうか、その前の持ち主は、人を助けるための戦いをしていたようじゃの。自身が傷つくこともいとわず、弱き者のため、正しい者のため命懸けで戦った、立派な戦士だったようじゃな」
「おじいちゃんは、武器のことなら何でもわかるんだよ」
驚くライラに、えっへん、とラルカが胸を張った。
「無論実力も確かじゃ。そして最後まで、誰かを守って戦い、そして亡くなったのじゃな。わしはその戦士に、心より敬意を表する」
そういうとガドンは大斧をテーブルに置いた。
「じゃが、この武器は、もう戦うことはできん」
ライラは目の前が、真っ白になった。心臓の鼓動が、どんどん大きくなる。ラルカはそのセリフをある程度予想していたのだろう、悲しそうな表情を浮かべ、目を伏せた。
「すまぬな、お嬢さん。じゃが、わしは武具については噓は言えんのじゃ。辛いじゃろうが、こらえてくれ」
ガドンが申しわない、と頭を下げた。しかしライラは、それが目に入っていないようだった。ガドンは諭すように、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「お嬢さん、聴きなされ。良い武器には、魂が宿る。良い武器とは、職人だけが決めるのではない。その武器の持ち主の器量、心、そして生き様が良い武器を作る。たとえどんな凄腕の職人であろうと、造られた武器はそれだけではただの物にすぎん」
ライラは顔を下げたまま、黙って聞いている。
「この武器は本当に良い武器じゃ。元々の持ち主も、そしてもちろんお嬢さんも、素晴らしい戦士じゃ。それゆえ、この武器には魂が宿っている」
ライラが少しだけ顔を上げた。
「その魂が言っておる。もう、私は戦えない、私にはお嬢さんを守れない、とな」
ライラの顔が苦痛に歪む。
「じゃが、それは、この武器がお嬢さん、あんたを本当に大切に思っているからじゃ。じゃからこそ、すでに力を失った自分では、もうお嬢さんを守れないことに気付いておる。お嬢さんを守る力がない自分では、もう戦えないことに気付いておる。じゃから、もう休みたい、そう言っておるのじゃ」
ガドンは折れた大斧をライラに優しく手渡した。
「これは、前の持ち主のもとで休みたい、そう言っておる。そこでまた彼と思い出を語りたいと。わしも、それがいいと思う」
ガドンが優しく微笑んだ。ライラは大斧を胸に抱きしめた。肩が震えている。しかし涙は見せない。ライラにとってそれは自身の誇りであり、誓いでもある。そして、ゆっくりと頷いた。ガドンも優しい目でライラを見つめた。
「ね、おじいちゃん、もう一個お願いがあるの。一生のお願い」
「なんじゃ、ラルカよ」
ガドンはにっこりとラルカに笑いかけた。すでにラルカが何を言いたいのかわかっているガドンは、ラルカが優しく育ったことを心から喜んでいた。
「ライラに、新しい武器を作って欲しいの」
「うむ、引き受けよう」
初めから返事は決まっていたため、少し食い気味にガドンが答えた。
「――!!」
ライラが思わず頭を上げた。
(今、何て言った?武器を作る?だれの?わたしの?だれが?あの世界一の鍛冶師、国宝マレウスが!?)
「ちょちょちょ、ちょっとまて、いくらなんでもそれはだめだ!」
「?なんで?」
「?なぜじゃ?」
「?ナゼデショウ?」
なぜかタロス77号がいつのまにかその場にいた。ガドンはタロス77号を隣りの部屋まで蹴り飛ばした。
「な、なぜって、この方の武器といえば、どんな国でも国宝認定間違いなしの一品なんだぞ!」
ガドンの二つ名の国宝とはアルトリッツでの称号であるが、同時に彼の作品のことごとくが各国で国宝に指定されている、と言う意味でもある。
「それが、どうしたの?」
「わ、わたしに、そんな金が払えるわけないだろう!」
ガドンの作品をまともに買おうとすると、その価格は最低でも千ユリウス(一億円ぐらい)を超える。とても一般の義勇士に手の届くものではない。
「ああ、そんなことか。心配はいらん。孫の頼みじゃ、金なぞいらんよ」
即座にガドンが否定する。
「ええ!?」
「老い先短いじじいにとって、孫の頼みを聞くのが老後の楽しみなのじゃ。お嬢さん、どうかわしの作品で良ければ受け取ってくだされ」
「ね、ライラ。おじいちゃんもそう言ってるし、もらっといたほうがいいよ?」
ラルカはガドンに、老い先短いなんて言わないで、とこつんと頭を軽くたたきながらライラを説得する。
「お、お前、何言っているのかわかっているのか!?わたしは、まだ七級の義勇士にすぎないんだぞ!?この方の武器なんて、超一流の戦士か、大金持ちが持つ大業物だ!わたしなんかが持っていいわけないだろう!」
「それは違う、お嬢さん」
ガドンの言葉は今までの声色と異なっていた。優しいが、威厳のこもった言葉にライラがはっとした。
「今までわしには多くの武具の依頼があった。数えきれない量の金貨を持ってきた者もおったし、土地や称号も数多く貰った。わしも若かったころは、それが誇らしかった。わしの作品にはそれほどの価値があり、この世にわしの作品を超えるものなぞ無いと。しかし、そ奴らの多くは、わしの作った武具を使わず、ただ飾っておるだけじゃった。なんのことはない。奴らはわしの武具が欲しいのではなく、わしの武具を持っているという事実だけが欲しかったのじゃ」
そう言うと寂しそうに部屋に飾ってある自身の作った武具を見渡した。
「それを知ってからわしは、自分が気に入った相手にしか武具は作らんと決めた。じゃが皮肉なことに、それからわしの作品はより価値が上がったらしい。百万ユリウス(一千億円ぐらい)で専属の鍛冶師になってほしいという者もいたし、武具の代わりに王位を譲るという者もいた。暗殺者から武器を作れ、と脅されたことは数え切れん。すべて返り討ちにしたがの」
ライラは思い出した。ガドンは戦士としても頂点に近い実力であるということを。
「わしが武器を作りたい、と思わせてくれたのは、お嬢さんが久しぶりなんじゃ。決してラルカの頼みと言うだけではない。わしが、お嬢さんを見込んだのじゃ」
ガドンはライラの目をまっすぐ見据えた。
「頼む、わしにお嬢さんの武器を作らせてはくれまいか」
ライラは何を言えばいいのかわからなくなった。困惑して、ラルカを見ると、ラルカがウインクをした。
「ほ、本当に、いいのですか」
「もちろんじゃ」
ガドンがうなづく。ラルカは作戦成功、と一人喜んだ。
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