少年、少女たちと共闘する④
「でもぉ、おかしいですねぇ」
ラルカと別れた三人が走っていると、クリスティーナが首をひねった。
「?なにがにゃ?」
「ラーヴァナなんて強力な魔物が、このあたりに出るなんて聞いたことないですよぅ。ラクシャーサだってぇ、ほとんど目撃情報なかったはずですしぃ」
「どっかからやってきたのかにゃ」
「でもぅ、ラクシャーサってあんまりなわばり移動しないはずなんですよねぇ」
「どうだっていいだろ、そんなこと。そろそろ、見えるぞ」
ライラが言った通り、二体のラクシャーサの姿が見えた。
「い、いたにゃ。どうするにゃ?」
「と、とりあえずぅ、遠距離から私がぁ、魔法でぇ」
クリスティーナが言い終わる前に、ライラが大斧をもって突撃していた。
「そうか、そんなことが」
ラルカに助けられた義勇士が、ヒショウに顛末を話していた。
「ご苦労だった。今回の件、君には追加報酬を出しておく」
「ありがとうございます。しかし、なぜこんなところにラクシャーサの集団がいたんでしょうか」
ヒショウが腕を組む。すると、ロベスピエールがやってきた。
「ヒショウ殿、私も疑問がある。ラクシャーサほどではないが、このあたりに強い魔物が多すぎる気がするのだ」
「そうなんですか」
「うむ。このあたりは普段骨齧りや人食み程度の災禍規模の魔物しか出ない。稀に猛者切りも出る、と言った程度だったはずだが、前回も今回も猛者切りの魔物の会敵報告が多すぎる。前回だけなら偶然と思ったのだが。今回ラクシャーサが出現したことを考えると、魔物の生息域に変化が出たのかもしれない」
「なるほど」
「それに」
ロベスピエールは一つ咳ばらいをし、言葉をつづけた。
「現時点で、狂戦士の栄誉の傘下パーティと接触したという報告が、すでに五組も上がっている。ほとんどはただの三下だったが、一組は五級義勇士のアシッドアソシエイションだった」
「アシッドの奴らか」
武闘派で鳴らした手練れのパーティだった。彼らが狂戦士の栄誉の傘下になったのは比較的最近だと記憶している。
「幸いにも大きな騒動にはならなかったが、今朝のこともある。シザリオ辺境伯と揉めるのは得策とは思えん」
ううむ、とヒショウが腕組みする。
「次回は場所を変えたほうがいいのでは?」
「いや、できるだけ不確定要素を減らすためにも、場所は変えないほうがいいでしょう。今の状態が一時的な異常の可能性もある。シザリオ辺境伯も学長とまともに対立はしないでしょう。しかし、ロベスピエール先生の懸念ももっともだ。念のため、私の方でもこの地を再度調査してみますね」
ロベスピエールはやや不満気だが、一応は納得して引き下がった。
「これで全部かな」
ラルカはすぐにラクシャーサの集団を発見し、全員の首をはねた。十体ほどいたが、ラルカにとっては赤子の手をひねるようなものだった。
「じゃ、合流しよっか」
ライラたちの方角に向かって、特に急ぐわけでもなく走り出した。向こうにはラクシャーサが二体しかいないことは確認している。今の三人の実力なら、苦もなく倒せるはずだった。しばらく走ると、以前に探知した地点から戦闘している気配を感じた。一瞬違和感を感じる。ラルカの見立てではとっくに戦闘が終わっているはずだった。
(・・・・?)
ラルカは速度を上げ、瞬時に戦闘が行われている地点にたどり着いた。すでに一体のラクシャーサが息絶えていたが、もう一体はカレンとクリスティーナが応戦していた。二人はやや苦戦している。それを見たラルカはラクシャーサの頭部付近に飛びあがり、
「月夜烏」
抜刀一閃、首をはねた。
「あ!ら、ラルカ、ありがとうにゃ。助かったにゃ」
「はふうぅ~、こ、こしがぬけちゃいましたぁ」
カレンがほっと息をつき、クリスティーナはその場に座り込んでしまった。
「良かった、けがはないみたいだね。どうしたの、何かあったの?ライラは?」
「そ、それがぁ」
クリスティーナがおずおずと指をさした方向を見ると、ライラがうずくまって何かを抱きしめている。その背中はかすかに震えていた。
「初めは問題なかったにゃ。何とか一匹倒したんにゃけど、もう一匹の攻撃をライラが受けた時に、ライラの大斧が、その・・・」
ラルカはライラの抱きしめている物が、愛用の大斧であることを確認した。以前にグランドバブーン戦で折れたところと同じ箇所で再び折れていた。やはり強度は戻っていなかったのだ。ライラは大切な人の亡きがらをいただくように、それを抱えていた。
「ライラ」
ラルカが背中から声をかける。反応はない。
「ごめん、僕が到着するのが遅れちゃったからだね。ほんとにごめん」
ラルカが頭を下げる。反応はない。
「だからね、ライラ」
ラルカは駄々をこねる子供を諭すように、優しい声で話した。
「僕の知り合いにね、腕利きの鍛冶師がいるんだ。その人に、その武器見てもらおうよ」
ライラの背中の震えが、一瞬止まった。
「世界一の鍛冶師だよ。ね、その人に見てもらおう?きっと、助けになってくれるよ」
ライラの震えが今度こそ止まった。
「うるさい!余計なお世話だ!私にかまわないでくれ!放っておいてくれ!」
ライラの感情が爆発した。
(お前に何がわかる、聖輪教徒のお前に、お前なんかに)
「ほっとけ無いよ。大切な物なんでしょう?」
「お前の助けは要らない!」
(裏切られた。とうさんも、かあさんも、助けてきた奴らに。だからわたしは、誰も助けない。誰にも助けられない。そう誓ったんだ)
「僕はライラを助けたいな」
「うるさいうるさい!お前には関係無い!だいたい、何でわたしに構うんだ!?」
「友達だからだよ」
「――――!!!」
――ライラ、友達を作れよ。
――ライラ、幸せにね。
「友達だもん、困ってたら助けるのは当たり前じゃん、ねえ?」
ラルカがカレンとクリスティーナのほうに振り返る。カレンが大きくうなずいている。クリスティーナも何度も首を縦に動かしている。
「友達だから、ライラが悲しいと、僕も悲しい。ライラが嬉しいと、僕も嬉しい。だから、お願い。僕に、ライラの手助けさせて?」
「お前に―」
ライラが初めてラルカのほうに振り返ったが、「何がわかる」、との言葉は出てこなかった。ラルカの目から、大粒の涙がぽろぽろ流れている。ライラをまっすぐ見て、大粒の涙を流している。ライラは両親以外で初めて、自分のために泣いてくれる人を見た。
「ね、ライラ、お願い」
後ろでカレンもクリスティーナも泣いていた。ライラは歯を食いしばった。二度と涙を見せない、その誓いを破りそうになったから。
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