少年、少女と仲違いする③
――何故だ。
血の滲む様な修行をしているのに。
――何故なんだ。
あんな、修行を楽しむとか甘ったるいことを言っている奴に。
――何故、負けた。
覚悟だって、私のほうが上のはずなのに。
対するライラは、まだ起き上がれずにいた。腹部の痛みは感じるが、もう立てないほどではない。しかし、起き上がるどころか、顔を上げることさえできない。
「ラルカ、ありがとうにゃ!ラルカの教えてくれた技で、勝てたにゃ!」
カレンの言葉が胸を刺し貫いた。瞬間、裏切られた、との思いが浮かぶ。だが、すぐにそれを打ち消した。ただ助言をするくらい誰だってやる、そもそもあいつなんか、自分の味方だなんて思ったことはない、何度も自身に言い訳をするも、その思いは胸の中でどんどん大きくなっていく。
(また、裏切られた。人間に)
(とうさんとかあさんが、裏切られたように)
―――神は正しき人に慈悲を下さいます。
―――こいつを売れば、10ユリウスぐらいにはなるだろ。
(やめろ!)
ライラに忌まわしい過去の記憶が甦る。ライラは何度も首を振り、それを追い出そうとした。
「ライラ、お疲れ様」
ライラは立ち上がらない。
「どうしたの?どこか怪我した?」
ラルカの首には、ペンダントがぶら下がっている。その先には、聖輪教のシンボルである輪をかたどった装飾が光っていた。
―――神は正しき人に慈悲を下さいます。
「ねえ、ライラ。カレン、強くなったでしょ。みんなと一緒に修行すると、楽しいし、色んなことが学べるよ?今日から、ライラも一緒に練習しない?」
ラルカがライラに手を伸ばす。しかしライラはその手を忌々しげに振り払った
「・・・わたしに、構うな!」
その声に、ラルカが一瞬悲しそうな顔を見せた。ライラはその顔を見なかったふりをして、足早に去っていった。カレンはおどおどとライラとラルカを見比べている。ラルカがライラを追いかけようとしたとき、ヒショウがラルカの肩に手を置いた。
「先生?」
「そっとしておきなさい。今は、顔を見られたくないはずだ。特に、君にはね」
ラルカはライラの背中を見えなくなるまでずっと見続けていた。やはりその背中が泣いているように見えた。
「ってわけなんですよ、あいつらガキと思って調子に乗りやがって、シメてやったほうがいいじゃないですか?」
王都にある高級酒場の一角にいたのは、ラルカに吹っ飛ばされたヘルズドックスのリーダーだった。他のメンバーもそろっている。彼らが話しているのは酒場の最もいい席にいる五人のパーティだった。
「それで、てめえはそいつらをどうしたんだ?」
一番奥の席にいる大柄な男がつぶやく。両脇に踊り子を侍らせ、ウイスキーをあおっていた。その声、風貌は青年と言うには威厳に満ちており、中年と言うには若々しい強さがある。
「いや、あっしじゃ手も足も出ませんで、へへ、何しろガキのくせにとんでもない強さのやつで・・・」
その時、大柄な男の右隣にいた眼鏡をかけた男が、三節棍でしゃべっていた男のみぞおちに突きを入れた。
「ぐあっ!」
突かれた男は後ろに吹き飛んだ。酒場が一瞬静寂に包まれた
「それで、我々に尻ぬぐいしろと言うのか」
眼鏡をかけた男が殺気を出す。
「と、とんでもないです、ただ、報告したほうがいいんじゃないかと思って・・・」
ヘルズドックスのリーダーがおびえた声を出す。それを見て、大柄な男の左隣にいたガラの悪い男と、その隣にいるがげらげらと笑っている。大柄な男が立ち上がった。
「やめなよ、こんな小物に」
声を出した女性は踊り子ではなく、五人のパーティ唯一の女性だった。大柄な男はその声を無視し、吹き飛ばされた男の前まで歩くと、その男を何度も踏みつけた。
「ひいいいいい・・・」
リーダーが暴行を受けるのを、ほかのメンバーは悲鳴を押し殺し見守るしかない。大柄な男が、全員で戦っても手も足も出ないことがわかっているからだ。
「いいか、てめえらはもうすでに狂戦士の栄誉の傘下なんだ。てめえらが舐められるってことは、俺の顔に泥を塗るってことだ。俺たちをなめてる野郎は全員ぶちのめせ、誰であろうとな。分かったか」
リーダーは涙を流し、何度もうなずいた。
「分かったら、そいつぶちのめして、俺の前へ連れてこい」
「・・・す、すみません、お、俺なんかじゃ、とても勝ち目は・・・」
泣き言をいうリーダーの顔面に、大柄な男がさらに蹴りを入れる。
「分かっちゃいねえな。狂戦士の栄誉の一員になったんだったら、敗北するときは死ぬ時だ。勝てねえなら死んで来い」
ヘルズドックスのメンバー全員が震えている。リーダーは涙ぐみながら、憐れみを誘うような目で、大柄な男を見上げた。
「まあ、落ち着けよダイガン。子供のやったことじゃねえか。俺らに対してどうこうするようなわけじゃねえだろ?」
いつの間にか近づいていたガラの悪い男がエールを飲みながら、大柄な男の肩に手をまわした。
「しかし、学園ってことはまだ十代のジャリだろ?そんな強いやつがいるのかねぇ」
パーティ唯一の女性が疑問を口に出す。
「子供とはいえ、あの学園はエリートの集まりだ。こいつら程度を圧倒する生徒がいてもおかしくはない。今の一年は闇の子世代だからな」
三節棍を持った眼鏡をかけた男の言葉に、全員が納得した。
「そう言えば、その世代か。だが、別に俺たちにゃ関係ねえだろ」
「いや、今後の活動を考えると、学園の連中にあの森をうろうろされるのは厄介だ。とは言え我らが手を出すのはまずい。シザリオ辺境伯に話し、くぎを刺してもらったほうがいいだろう。よろしいでしょうか、ダイガンさん」
眼鏡の男の言葉に、大柄な男は席へ戻り、両脇にいる踊り子を抱き寄せ、不機嫌な顔でウイスキーを一気にあおった。
「失せな」
その声に、ヘルズドックスのメンバーは逃げるようにその場を後にした。大柄な男は、空になったグラスを握りつぶした。
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