少年、少女と仲違いする①
「ま、まいったにゃ」
その日の武術訓練の授業でもライラとカレンの試合が行われた。二人とも武術においては生徒の中で圧倒的に強く、まともに試合の相手ができるのがお互いしかいないので、これまで何度も試合を行っていた。とはいえ二人の間にも力の差はあり、今のところライラの全勝である。しかし、
「はあ、はあ、はあ・・・」
この日はライラも大きなダメージを受けた。何とか勝利をもぎ取ったものの、明らかに力の差は縮まっている。勝者であるはずのライラのほうが浮かない顔をしているのはそのためだ。
「よし、今日はここまでにしよう」
ヒショウの言葉と同時に鐘が鳴り響いた。
「ラルカ君、ちょっといいかな?」
次の魔法訓練の授業に向かおうとしたラルカをヒショウが呼び止めた。
「なあに?ヒショウ先生」
「すまないけど、お願いしたいことがあるんだ。あ、カレンも、ちょっとこっち来てくれないか」
「にゃ?」
ライラとの勝負の後、治癒魔法をライラと一緒に受けていたカレンが小走りでやってきた。
「なんですかにゃ?」
「じつは、今日の自由時間、ラルカ君にカレンの指導をお願いしたいんだよ」
「うにゃ!?」
カレンが驚きの声を上げる。少し離れたところにいるライラの眉が、ピクリと動いた。
「僕でいいの?」
「カレンは私からしか武術を教わっていない。そうなるとどうしても偏りのようなものが出てしまうし、それにラルカ君は武器や魔法も使うだろう?ぜひ、対武器や魔法相手の戦い方を教えてほしいんだ」
「カレンは良いの?」
「ら、ラルカがよければ・・・」
カレンの頬が赤くなった。
「じゃあ、いいよ」
「ありがとう、私は今日ギルドの仕事があるのでね、これで失礼するよ」
ヒショウがあわただしく帰っていった後、ラルカは治療の終えたライラに声をかけた。
「ねえ、ライラも一緒に特訓しない?」
「・・・断る」
「一緒にやったほうが楽しいよ?僕も、ライラといっしょに練習したいな」
冷たいライラの返事にも気にした様子なく、ラルカはにっこりと笑ってライラ意を誘った。
「・・・楽しむつもりなど無い。それに、馴れ合いはごめんだ」
しかしライラは、にべもなく立ち上がり、一人で歩いて行った。ラルカにはその背中が泣いているように見えた。
「へえ、カレンって後の先も得意なんだ」
ラルカが意外そうにつぶやいた。周囲の目を気にせずに練習するため、楽園への扉で無人の荒野に移動した二人は、体術のみでの手合わせをちょうど終えたところだった。
「にゃ。だけど、相手が武器もっているとなかなかきまらにゃいにゃ」
体育座りをしたカレンは悔しそうに下を向いている。確かに素手で武器攻撃をいなすのは至難だろう。
「確かにそうだね。でも、攻撃を避けるのも上手だし、持久戦に持ち込むのが得意なの?」
その質問に、カレンが目を伏せた。
「笑わにゃい?」
「うん、約束する」
「カレン、血が怖いんだにゃ」
ラルカの目を見ずに、カレンは独り言のような小さい声で答えた。
「血が出るの嫌だ、血が出たらどうしよう、そう思ってしまうと、積極的に自分から動けにゃいにゃ。だから、防御方法ばっかり練習して、積極的な戦い方ができにゃいんだにゃ」
「なんだ、そんな事」
「にゃ?」
「笑わないよ。僕だってそうだもん。誰だって痛いのは嫌だよ」
「にゃ・・・」
カレンは黙っている。ラルカに対してどこか申し訳なさそうにも見える。
「でも、その点ライラはすごいにゃ。全然自分が傷つくこと恐れていにゃいにゃ。だからカレンは、ライラにいっつも勝てにゃいんだにゃ」
「・・・」
ラルカは黙っている。確かにライラの覚悟の強さは群を抜いている。もしかすると、それだけに関していえば、ラルカをも超えているかもしれない。だが、それは同時に危うさでもある。
「ねえ、カレンって気弾は使えるの?」
重くなった雰囲気を変えるように、ラルカが明るい声で尋ねた。
「うん、一応使えるにゃ。一番基本の咆掌破だけにゃけど」
「そっか、でも試合じゃ使ってなかったようだけど」
「ヒショウさんが、気弾は闘気の消耗が激しいから、とどめ以外じゃ使わにゃいほうがいいって」
「そっか、でも、カレンって闘気の量だったらライラよりずっと多いよ。気弾使えば間合いの差を埋められると思うけど」
「ラルカは、気弾使うにゃ?」
「一応使えるけど、僕は遠距離攻撃は魔法を使うことが多いかな」
「あ、確かにそうにゃ。カレン、魔法は使えにゃいにゃ」
「でも、気弾が使えれば、遠距離攻撃で魔法使いにも後れは取らないよ」
ラルカはジンブを思い出した。彼も魔法は一切使わないが、強力な気弾攻撃を持っており、その威力はラルカの神気の雷霆を遥かに超えている。
「でも、ライラに通用するかにゃ?ライラの闘気、カレンよりずっと強いにゃ」
「うーん」
ラルカは腕組みした。ライラの闘気の色は青で、カレンの緑の一段階上である。咆掌破程度の気弾だと、直撃しても大きなダメージは期待できない。
「あ、そうだ」
ラルカが何か思いついたような声を出した。
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