少年、魔物狩りに行く①
生徒たちが落ち着かない様子でざわめいている。ロベスピエール教諭が静かにするよう声をかけているが、ざわめきは増すばかりだ。
(無理もないか)
ヒショウは苦笑いを浮かべた。ラルカたちが入学してから二十日が過ぎ、本日は初めての野外訓練の日だ。王都近くの魔物が多発する森で、実際に討伐を行う。本来はもっと先の予定だったのだが、今年の入学生のレベルが高いため、ヨミが前倒しで実施することを決定した。しかしたとえ優秀な生徒であろうと、魔物と戦うのはほぼ全員が初めての経験だ。緊張するのも無理はない。しかし、ラルカだけは別だった。
「ん!ん!」
ラルカは頬を大きく膨らませ、パタパタと上下に短い腕を振りながら、ダルタニアン教諭に向かって飛び跳ねて何かを訴えている。顔を真っ赤にして、不満気な様子を隠そうともせず、何かをアピールしていた。
「・・・あいつ、何やってんだべか。」
「ラルカさん、今日の魔物討伐、不参加にされちゃったみたいですよぅ。ラルカさんが闘うと、私たちの授業にならないからって」
「それで、先生に抗議してるってわけかにゃ」
ゴンゾ、クリスティーナ、カレンの三人はラルカを通して友誼を深め、今ではほぼ毎日夕食を共にするまでになった。
「てか、先生も何で黙ってんだ?」
「ああ、あれはしょうがないですよぅ。私だって、ああなっちゃいますもん」
「うん、ちょっと先生が羨ましいにゃ」
(・・・かわいい)
ラルカのその行動はダルタニアンにとって稚児のわがまま程度にしか映っていない。大きく膨らんだ頬を指でつつきたい衝動を必死で我慢している。
「こらこらラルカ君、わがまま言っちゃいけないよ」
ヒショウが優しい笑みを浮かべてラルカをたしなめる。
「ん~~~っ!!」
ラルカはよりほほを大きく膨らませ、顔が真ん丸になってしまった。本人は精一杯怒っているつもりなのだろう。
「いいかいラルカ君、君は生徒たちを守って、万が一強力な魔物が出現した場合に対処するという重要な役目があるんだよ。だから、討伐の授業がないからと言って、気を抜いちゃいけないよ?」
「・・・はぁ~~い」
口から空気の抜ける音がしてようやく膨らんだ顔が元に戻った。ダルタニアン教諭が少し残念そうにしている。
「ふふ、ざんねんだったにゃ、ラルカ。でも、どうせラルカが戦うレベルの魔物なんかでにゃいとおもうにゃ。この森で出るのは強くても猛者切りぐらいの魔物ってヒショウさんが言ってたにゃ」
「も、猛者切り・・・」
ゴンゾが怖気づくのも無理はない。猛者切りの魔物であっても一般人にとっては手も足も出ないほど強く、訓練した戦士であっても不覚をとることはある。あの傲慢なアウグストでさえ、緊張した面持ちである。
「カレン、ちょっと楽しみにゃ。この服も初めて着れるし」
カレンが嬉しそうにその場でくるりと回った。今日の訓練では生徒たちは制服ではなく、各々の装備で戦うことになる。学校から支給された武具を使う者もいれば自身で用意した者もいるが、カレンの武道着は入学祝いにヒショウからもらったものであった。
「はいぃ、私もそれには同感ですぅ」
「まあな、オイラの自慢の武器もやっと性能試せるべ」
クリスティーナは母が用意してくれたローブと杖を持っており、ゴンゾに至っては鎧も武器の大金槌も自作である。ゴンゾ作の武具の質はすでに店に販売できるレベルであり、鍛冶の教師ツァーリマンが舌を巻いていた。
「・・・みんないいなあ」
ラルカが恨めしそうな声を出した。まだ未練があるらしい。
「では、今から魔物討伐の訓練を始める」
ヒショウの声がすると、さすがに生徒たちのざわめきが止まった。今回の討伐訓練では事前に組んだ四人一組のパーティ毎に一人、教員もしくは義勇士が付く。義勇士はヒショウの要請で協力に応じた強さと経験、及び人柄に優れた者たちである。因みにゴンゾ、クリスティーナ、カレン、そしてラルカのパーティだけは例外的に教諭も義勇士も付かず、その役目をラルカが担う。万が一村焼き以上の魔物が出現した際には教諭や義勇士(及びラルカ)が戦闘に参加することになっていた。
「それでは、出発!」
ヒショウの声で、それぞれのパーティが出発した。ラルカはちらりとライラのパーティを見た。始めライラをパーティに誘ったのだが、断られていた。ライラはラルカに直してもらった愛用の斧を背中に背負い、他三人の生徒とともに森の中へ消えた。
(武運を、ライラ)
ラルカは少しだけ寂しい気持ちになったが、すぐに気持ちを切り替えた。
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