少年、精霊と少女を契約させる④
翌日の魔法訓練の授業で、彼女が放った水神の破城槌に、全員目が飛び出さんばかりに驚いていた。
「ば、ば、ばかな・・・」
特に衝撃が大きかったのはアウグスト王子であった。昨日まで完全に見下していた相手に、たった一日であっという間に追い抜かれてしまった。ラルカはクリスティーナとハイタッチをしている。ナイチンゲール教諭はそれを見てくすりと笑い、そして目元の涙をぬぐった。
「な、ナイチンゲール先生!いったいこれは、どういうことなんですか!?」
昨日のことを知らないシュバルツ教諭がナイチンゲール教諭を問い詰める。ナイチンゲール教諭はラルカによって精霊と契約したことなどをシュバルツ教諭に話した。
「ま、ま、まさか、そんなことが・・・」
「はいぃ、全部、ラルカさんのおかげなんですぅ。私は何もしてないですしぃ」
「それは違うよ、クリス」
ラルカが首を振る。
「ウンディーネがクリスを気に入ったんだよ。ガイアが命令して契約させたわけじゃない。クリスの高潔な心に、ウンディーネが心を動かされたんだよ。僕はただ、それをクリスに伝えただけ。水神の破城槌だって、クリス自身の力でできるようになったじゃない。もっと自信をもって?」
「は、はいぃ」
クリスティーナの顔が赤くなる。
「ら、ら、ラルカ君、ガイア様を使役しているって本当なんだね?」
「え、あ、うん」
そう言うとラルカはガイアを顕現させる。初めてガイアを見た生徒や教師たちが驚きの声を上げる。
「実は僕、昔地属性の魔物が苦手だったんだ。僕の得意魔法が火と雷だったから」
地属性は火、雷に強い。特に雷魔法は効き難く、地属性のグランドバブーンにライラの雷魔法も全く通じなかった。
「そこで、水か木の精霊と契約しようとしたんですけど、なぜか地の精霊のガイアが現れて、僕についていきたいって言ってくれたんだ。僕もガイアのこと気に入っちゃって」
ねーっとでもいうように、ガイアとラルカが顔を見合わせた。
「ちょ、ちょっとまで、ラルカ」
「ん?どうしたの、ゴンちゃん」
ゴンゾが慌てて話に割り込んできた。
「お、お前、雷魔法使えんだろ?なのになんで、地属性のガイア様を使役できんだ?」
雷と地は相反する属性であり、雷の適性を持つラルカは地属性の魔法は使用できない。
「んっとね、確か、叡智精霊以上の高位の精霊は、相反する属性の適性を持ってても契約できるらしいよ」
「じゃ、じゃあ、お前も地属性の魔法つかえんのか?」
「正確には僕じゃなくて、ガイアに頼んで地属性の魔法を使ってもらってるけど」
ラルカがうなずき答える。ゴンゾはパッと目を輝かせ、
「たのむ、オイラに火の精霊と契約させてくれ!」
「え?ゴンちゃんも?」
「ああ、頼む。代償は何でも払う。なあ、オイラと契約したい火の精霊がいるか、ガイア様に聞いてみてくれ!」
必死に頭を下げるゴンゾ。ラルカはガイアに尋ねてみた。ガイアが目をつぶる。精霊は言葉を使用しない代わりに精神をつなげることで、距離が離れていても意思を伝えることができる。ガイアは火の霊長精霊にその意思を伝え、火の霊長精霊フェニックスがほかの火の精霊に尋ねる。しばらくして、ガイアが目を開け、ラルカに対し静かに首を振った。
「あ。そうなんだ。うん、わかった。ありがとう」
「ど、どうだ!?」
ゴンゾがすがるような目を向ける。ラルカは少し言いにくそうにしていたが、意を決して話した。
「うん、一人契約を考えてもいいって言っている精霊はいたようなんだけど」
「ほんとか!?」
ゴンゾが目を輝かせる。
「でも、今はその時じゃないって。なんか条件があるみたいで、それをゴンちゃんが満たせば契約してくれるみたい」
「な、なんだよそれ、どんな条件なんだ!?」
「それは教えられないって。教えてしまっても意味がないし、教えてもできることじゃないって言ってたって」
「じゃ、じゃあ、他の精霊でもいいから、誰かいないのか?」
「・・・どうやらこの精霊だけみたい」
「・・・そうか」
ゴンゾが肩を落とす。同時に鐘が鳴り響き、魔法訓練の授業が終わった。ラルカが声をかけても反応せず、ゴンゾがとぼとぼと歩いて行った。
「ゴンちゃん、どうしちゃったのかな。なんか元気無さそうだけど」
「ラルカ君」
シュバルツ教諭がラルカの肩に手をおいた。
「先生?」
「ゴンゾ君は、なんのためにこの学校に入ったか、聞いていますか?」
「えっと、確かこの国で一番の鍛冶師になりたいって言ってました」
「ゴンゾ君には、水魔法の適正があるのです」
「あ!」
ラルカが思わず声を出し、直ぐに下を向いた。その顔がどんどん青ざめていく。一流の鍛冶師は地と火属性の魔法を使用する。鉄程度であれば魔法が使用できなくとも加工可能だが、ミスリルやオリハルコン等の希少な金属を加工するには地と火属性の魔法が必須となる。ドワーフはほぼ全員が地と火属性の適正があるが、ゴンゾには何故か地の適性しか存在せず、逆に水属性の適性があった。火魔法が使用出来ない以上、希少金属の加工は不可能となる。
「僕、ゴンちゃんに謝ってきます」
シュバルツ教諭は静かに頷いた。ラルカに非はない。だがゴンゾが傷付いたのは間違いないだろう。たとえ他意がなくとも人を傷付けることはあり、謝らなくてはならないときはある。走り出すラルカの後ろ姿を見ながらシュバルツは、自分が彼に教えられるのはこういった事かもしれない、と考えていた。
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