少年、精霊と少女を契約させる②
ラルカもナイチンゲール教諭も黙った。ポーションの作製に必要なのは水と聖魔法である。特に重要なのは水で、自然界に存在する水ではエルフの国にあるような清浄な水以外では粗悪なポーションしか作れない。しかし水魔法で生成した水であれば、ハイポーションやホーリーポーションのような上位のポーションも作製可能である。
「だからぁ、私はマナの量をたっくさん増やさなくっちゃならないんですぅ」
そういうとクリスティーナは再び魔法を放つべく構える。
「ちょっと待って、クリス」
「ふへっ?」
ラルカがクリスティーナの手を掴んだ。
「君の気持ちはよく分かったよ。君も、そして君のおじいさんも、どっちも素晴らしいと思うよ」
「ふ、ふええっ!?」
「だけど、その練習をずっと続けると、マナの量が増える前に、クリスの体が参っちゃうよ」
「で、でもぅ、他に方法なんて・・・」
「うーん」
ラルカが腕を組んで考えていると、ラルカの精神内でガイアが話しかけてきた。
「え?どうしたの?何か用事?」
「ふへっ?」
「え!?それ本当!?すごいすごい、それが成功すれば、全部解決だね!!」
「ら、ラルカ君、どうしたのですか?」
訝しげにナイチンゲール教諭が尋ねる。クリスティーナもラルカを少し心配そうに見ていた。
「あ、そうか、みんなには見えないのか。ごめんごめん。ね、みんなに見えるように、出てきてくれる?」
その直後、ラルカのそばにガイアが顕現した。
「な、ななななななな・・・」
「ふ、ふえええええええっ!!」
突然の高位の精霊の顕現に、全員目を疑う。
「ら、ら、ら、ラルカ君、このお方は!?」
ナイチンゲール教諭が顔を引きつらせて尋ねる。
「僕の使役精霊、ガイアです」
「が、ガイア!?ま、まさか、地の霊長精霊、ガイア様!?」
驚くのも無理はない。霊長精霊は世界にも5体しか存在しない、各属性の最高位の精霊である。人を遥かに超える知恵と力を持ち、太古から存在する神に近い存在であり、本来人ごときが契約できる存在ではない。
(し、しかも、使役精霊ですって?)
精霊の力を行使する方法は二種類存在する。一つは契約であり、精霊と一定条件のもとその力を借りる。もう一つは使役、即ち精霊を従わせる方法である。契約と異なり精霊の力をすべて使用することができるため強力だが、不老不滅の精霊は基本人間を見下しており、下位精霊でも使役することは稀であり、上位以上の精霊の使役など聞いたことがない。しかしガイアの圧倒的存在感は、彼女(と言っても本来性別自体存在しないのだが)が本物であることを雄弁に語っている。
「ねえ、クリス。もしよかったら、水の精霊と契約する気はない?」
「は、はひっ!?」
クリスティーナが驚きの声を上げた。
「ガイアが、クリスと契約したいって水の精霊がいるって言ってるんだ。契約内容はマナと実体化した水の供与。どうかな?」
精霊は自身より上位の精霊に従い、上位の精霊は下位の精霊を呼び出し使役することができるが、本来自身と同一の属性の精霊のみ可能である。しかしガイアはすべての精霊の中でも精霊王に次ぐ実力で、他の霊長精霊より一段上位に位置する。そのため他の属性の精霊でも、ある一つの属性を除き、ガイアの命令には従う。
「ど、どうって、どういうことですかぁ?」
クリスティーナはナイチンゲール教諭に助けを求める。
「せ、精霊は、契約の名のもと、その力を貸すのです。そのかわり、代償を求めるのですが、通常はマナの譲渡が多いようです」
しかし今回は、精霊側がマナを差し出すという。マナ以外で精霊が代償として求めるもので多いのは、寿命である。ナイチンゲール教諭の顔が恐怖に震えているのは、ガイアの神威に気おされしているだけではなく、それに対する懸念であった。だがラルカは大丈夫、とでも言いたげにウインクした。
「契約の代償は、君が夢をかなえること」
「!!」
おどおどしていたクリスティーナの目に、光が宿る。
「でも、水の精霊と契約すると、他の精霊との契約はかなり難しくなっちゃうよ。特に火の精霊との契約はほぼ不可能になると考えていい。それでもいい?」
「も、もちろんですぅ!!」
クリスティーナにしては珍しく、はっきりと聞こえる声で同意した。
「よし、それじゃあガイア、彼女を呼んでくれる?」
ガイアは母のような慈悲に満ち溢れた笑顔を浮かべると、右手を振り上げた。するとガイアの右に、長く青い髪を持つ精霊が現れた。
「彼女がクリスと契約したい水の精霊、ウンディーネだよ」
ウンディーネは水の叡智精霊である。叡智精霊は精霊の中でも霊長精霊に次ぐ高位の精霊であり、下位、中位、上位の精霊を束ねる存在だ。契約に成功すれば世界的快挙となる。クリスティーナもナイチンゲール教諭も他の生徒や教諭たちも、これほど高位の精霊とは想像もしていなかったのだろう。あっけにとられている。ウンディーネは微笑を浮かべ、クリスに右手を差し出した。
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