少年、精霊と少女を契約させる①
魔法訓練の後、自由時間となった。とはいえ遊びに行く生徒はほとんどいない。武術訓練や魔法の練習など、各々の裁量で修練を行っており、教師たちもその指導に当たっていた。ラルカはライラと一緒に魔法の訓練の続きをしようとしたが、ライラは断り一人でどこかに行ってしまった。ゴンゾも鍛冶の修行に行ってしまい、カレンはヒショウと武術訓練をするらしい。仕方なく一人で魔法訓練場に残っていたところ、同じように一人で魔法を練習する少女を見かけた。
「放水!放水!」
クリスティーナだった。先ほどの魔法訓練のときと同様に初期魔法を練習している。しかしやはり少量の水しか出ず、的であるダミーに届いてすらいない。それでも彼女は何度も繰り返す。眼には悔しさなのか、涙が今にもこぼれそうにたまっていた。
「はあ、はあ、はあ」
周りの生徒達は馬鹿にしたような目で見ているが、クリスティーナのそばで見守っているナイチンゲール教諭が目を光らせているため声に出してからかう者はいない。すでに何度も魔法を使用しているのだろう、ナイチンゲール教諭はクリスティーナに休憩をうながすが、クリスティーナは再び構え、呪文を唱え始めた。
「ねえ、ちょっといい?」
「んぴゃっ!」
クリスティーナの目の前に、突然ラルカが顔を出し、クリスティーナは変な声を出して飛び上がった。
「ちょ、ちょっとラルカ君、いきなり現れたら危険ですよ」
ナイチンゲール教諭が慌ててラルカに注意をした。
「あ、ごめんなさい」
「い、いえ、こちらこそぅ」
ぺこりと頭を下げるラルカに、クリスティーナもつられて頭を下げた。
「ねえ、今の訓練ってマナの量を増やすための訓練だよね?」
「は、はいぃ」
体内に蓄えられるマナの量は個人差があり、訓練で増やすことも可能である。いくつか方法があるが、最もポピュラーなのは体内のマナを使い切るまで魔法を使用することである。それにより大気中などの自然に存在するマナが体内に取り込まれ、最大値が増える。しかしマナが枯渇するまで魔法を使用することは使用者の身体への負担も大きく、またその効果も低いため、言うは易く行うは難しを体現するような修行である。
「ね、水魔法だったら本物の水を操作したほうがいいんじゃない?その方が効率的だよ?」
先ほどの授業でシュバルツが言ったように、水魔法はマナの使用量が非常に大きいが、そのほとんどは大量の水をマナで生成する際に消費され、水自体を操作し魔法を発動するのはマナの消費量はそこまで必要としない。戦闘時、多くの水魔法使用者は川や海などの水を利用している。そのため特定の場所では非常に強力だが、逆に水がない場所だとその戦闘力は大きく落ちる。
「は、はいぃ、それはそうなんですけどぉ・・・」
クリスティーナは俯いてしまった。ナイチンゲール教諭が困ったようにラルカを見る。
「私もそういったのだけれど、どうしてもマナを増やしたい理由があるようなのよ」
「そうなんだ。ねえ、僕で良かったら話を聞くよ。もしかしたら、クリスの悩みを少しは助けることができるかも」
「く、クリス!?」
「うん、クリスティーナってきれいでいい名前だけど、長いからクリス。だめ?」
「だ、だめじゃないですけどぉ」
頬を赤める。男性(と言っても子供だが)にここまで気さくに話しかけられたことはなかった。横目でナイチンゲール教諭を見ると、同意するように小さくうなずいた。
「わ、私ぃ、元々貴族の家だったんですぅ」
クリスティーナは訥々と話し始めた。
「おじいさまが当主だったんですけどぉ、領地でも領民のかたと一緒に農作業してたんですぅ。おじいさまもおばあさまもとってもやさしくてぇ、みんなで幸せに過ごしていたんですぅ。でもぉ」
そこまで話すと、悲しそうに俯いてしまった。
「いいよ、辛いならはなさなくても」
「い、いいえぇ、大丈夫ですぅ。あるときぃ、領地の村で流行り病が出ちゃったんですぅ」
ラルカとナイチンゲール教諭が顔を見合わせた。
「治すために大量のポーションが必要だったんですけどぉ、領民の方はそれを買うお金もなくってぇ、そこでぇ、おじいさまがポーションを買い付けて、それを領民の方に配ったんですぅ。そのおかげで誰も亡くなる方も出なかったんですぅ。けど・・・」
「けど?」
「・・・聖輪教の大司教様からぁ、勝手にポーションを配ったことを咎められたんですぅ」
「え!?なんで教会がそんなことするの!?」
ラルカは驚いてナイチンゲール教諭の顔を見た。ナイチンゲール教諭も唇を噛み、怒りと悲しみの表情を浮かべた。
「・・・ポーションの販売および流通は、聖輪教の許可が必要なんです」
元教会のシスターだった彼女は、誰よりも聖輪教の内部事情を知っている。その腐敗しきった組織に嫌気がさし教諭になった彼女は、クリスティーナの味わった理不尽に対し、彼女以上に憤りを感じていた。
「おじいさまは男爵の地位をはく奪されちゃってぇ、王宮に勤めていたお母さまもお暇を出されちゃったんですぅ。でも、私は、おじいさまのこと、誇りに思っているんですぅ」
彼女の目には涙が浮かんでいたが、その奥にしっかりとした意思を灯していた。
「だからぁ、私はたっくさんポーションを作ってぇ、おじいさまの意志を受け継いでぇ、例え罰せられることがあっても、多くの人を助けたいんですぅ」
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