少年、決意の日①
翌日、リリの葬儀が始まった。ヒショウはリリの眠る棺を抱え、泣いたままのユンとフウと一緒に聖堂へと入場する。その肩は怒りと悲しみに震えていた。シスターが奏でる入堂聖歌の声の中、前を歩く神父を仇のような眼でにらみつける。
(報いを受けさせてやる。いつか、必ず、貴様らを!)
リリの葬儀を教会がすると知るな否や、怒りに身を任せるまま王城へ抗議に行ったが、騎士団からは謝罪しか聞けなかった。大聖堂へと行くと、今度は相手にもされなかった。もうすでに決定事項で、変更は受け付けないとのことだった。
(すまないリリ。だが、君の魂は神獣と共にある。このような腐りきった連中の信じる神などではない!)
リリが眠る棺に、四界教での葬儀が行えないことを心の中で詫びる。身寄りのないリリの縁者は少ない。遺族の役割はヒショウ達三人が務めた。スラムの住人は教会へ立ち入りができないため、列席者はポールなどの義勇士数人と、ギルドの職員たち、それ以外には騎士団から副団長ホルスト・ティリングハーストと、その部下の二人のみだった。
(ラルカ君たちは、教会から列席を拒否させられたと聞く。カレンも無念だろう。後で形だけでも、リリを私達で弔おう。代わりに来たのが騎士団どもとは。それも団長ではなく副団長とはな。のこのこと何をしに来たのだ、この役立たずが!)
ヒショウが騎士二人に視線を向けると、副団長は気まずそうに眼をそらした。騎士団が参加した目的は、葬儀で教会が妙なまねをしないかの監視、関係がさらに悪化したギルドとヒショウに対する配慮であったが、リリへの追悼の気持ちがあるのも偽らざる真実であった。が、ヒショウがそれを知らないのも無理ではない。ヒショウとユン、フウがリリの棺を聖堂の中央へと安置する。ユンとフウがまた涙を流した。ヒショウは二人の肩をそっと抱き寄せる。
「それでは今より、葬儀を始める。よろしいですかな」
神父のエンリコがめんどくさそうな声を出す。ヒショウはエンリコの顔を殴りつけたくなったが、ぐっとこらえた。神父による聖書の朗読、説教をヒショウは適当に聞き流した。
(貴様らのような心の薄汚れた者共の言葉など、リリに聞かせたくもないわ。リリの御霊は、玄皇君の元へと旅立つのだ)
玄皇君とは獣人たちの多くが信奉する四界教の最高神である。四界教の神々の姿は人間に近いが、現世で神獣として姿をとっている、とされている。そのため、神獣は獣人たちにとって神に等しい。ヒショウは教会にいながら、心の中で玄皇君への祈りをささげていた。
「それでは、献花を」
神父の言葉に、騎士団の二人が棺の中へ花を添え、ヒショウへと頭を下げたが、ヒショウは見て見ぬふりをした。続いてポールをはじめとする義勇士数人、ギルド職員が続き、最後にヒショウ、ユン、フウがリリのそばへ花を添えた。ヒショウはこの場にカレンがいないことを寂しく思った。リリの顔が安らかに微笑んでいるように見えたことだけが救いだった。
「では、最後に、聖歌を」
シスターの一人がオルガンを奏で始めたその時、突然聖堂の扉が開いた。
「!?」
全員がその方向を振り返る。そこには、学園の制服姿が五人見えた。
「ら、ラルカ君!?」
ラルカを先頭に、ライラ、カレン、ゴンゾ、そしてダニエルの姿をしたジュリアンが続く。神父は驚いた様子だったが、我に返ると嫌悪感をあらわにし、
「何をしに来た。ここはお前たちのような罪人が来るところではない、今すぐ帰るがよい」
だが、神父の言葉に耳を貸さず、ラルカは棺へと歩き出す。それに続くライラたちも、どこか戸惑いの表情だ。未だにラルカはライラたちにも具体的に何をするか話してなかった。そのため、ライラたちもどうすればいいか戸惑っているのだ。
「何をしておる。おい騎士ども、この者たちをつまみ出せ」
神父の苛立たしげな声に、副団長が慌ててラルカへ近づく。
「すまない、君たちの気持ちはわかるが、一旦ここは耐えてくれないか」
だが、ラルカはその声にも耳を貸さない。何も聞こえないように、棺へとどんどん歩いていく。
「この罪人どもめが。貴様らのような狼藉ものには、神罰が下るぞ」
とうとう棺の目前まで来たラルカは、神父の声を無視し、棺の前に跪いた。掌で聖輪教のシンボルである輪の形を作る。目をつぶると、結界を展開した。
「ぶぎゃっ!?」
結界により神父が弾き飛ばされた。ラルカの結界の属性は時であり、全ての結界の中でも最も強く、時や空間魔法以外全てに相性がよく、物理攻撃にも無類の強さを発揮する。仮にこの場にいる全員掛かりでも、ラルカの結界を打ち破ることは不可能だろう。
「ラルカ君、一体何を」
ヒショウの問いに答えず、誰にも邪魔をされない空間の中でラルカは目をつぶり、リリの遺体に祈りをささげる。ヒショウ達も、騎士団も、シスターも、そしてライラたちも戸惑う。そのとき、ラルカの身体に今まで見たこともない量の聖のマナがあふれだした。
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