少年、苦悩す⑥
狂戦士の栄誉が酒場に着く少し前、王城にも客が来ていた。招かれざる客が。
「陛下、分かっておりましょうな。裁きに私情をはさんではなりませぬぞ」
グズル・フォン・シザリオ辺境伯が、いやらしい笑みを浮かべ、国王に迫っている。
「此度の事件、犯人はクリスティーナ・リングヴォルドで間違いないでしょう。三年前と同じですぞ。あの女を、今度こそ死罪にされますよう」
「辺境伯閣下、まだ調査は終わっておりませぬ。クリスティーナ様が犯人と言う証拠もございません。早計すぎましょう」
国王に代わり宰相が返答する。冷静に話しているが、胸中には怒りが渦巻いていた。
(私情をはさんでいるのはどちらだ、亡国の徒が。クリスティーナ様を殺させてなるものか)
それは国王のためでもあり、この国のためでもある。
「宰相は黙っていただこう。わしは陛下に聞いておる」
「辺境伯、パウルゼンの申す通りだ。現在事件については騎士団に一任しておる。まだ犯人は断定されていない」
「それならば、わしも調査に参加させていただこう。何しろ騎士団長はあの女の支持者だったからな。犯人をかばう恐れがある。よろしいですな」
「騎士団に一任しておる」
国王の言葉に怒気がこもる。グズルはふん、と鼻を鳴らした。
「聞けば、此度の死因は水魔法の毒化とのこと。三年前のアウグスト王子への暗殺未遂と同じである。これが証拠ではないと言うか」
どこから知った、と国王と宰相が同時に思う。騎士団にも辺境伯の手先が入りこんでいるらしい、すぐに騎士団長に報告せねば、とこれも同時に思った。
「あのとき、死罪としておればよかったものを。あのような身分の低い女に手を出し、王妃の信頼を裏切るから、あのような恐ろしい娘が産まれるのだ。我が妹がけなげでならぬわ」
その王妃は毎日男をとっかえひっかえしておるわ、と宰相は叫びそうになった。
「明日から、わしも調査に加わらせてもらう。では、失礼する」
「勝手は許さん。それは越権行為じゃ、許さぬ。これは王命である」
「王が間違いを犯しているのであれば、命に背いてもそれをお諫めするのが臣下の役目じゃ」
「先ほどからその物言い、無礼であろう!!」
ついに王が激昂する。グズルは一瞬怯えた表情を見せるも、すぐに嘲るような顔に戻った。
「それでは、ここは身を引きましょう。ああ、そういえば、大司教が明日来られるようじゃ。何でも、此度の事件について、神託がでたとか」
「なにっ!?」
「神託に間違いはありませぬからな、どのような結論が出たか、楽しみですな、では」
グズルは勝ち誇るような高笑いを上げ、王の寝室を後にした。
「陛下、本当に神託を大司教が受けたと言われましたら、まずはヴェレクへ確認が必要とおおせられませ。鳩ではなく、大使を通じて正式に確認をすると申せば、しばらく時は稼げましょう」
「だが、万一ヴェレクに神託を認められれば、如何するのだ。今度こそ、クリスティーナを死罪にせよと申すか!」
国王が机をたたく。宰相が黙る。その表情を見て、国王は八つ当たりした自身を恥じた。
「少々気が高ぶった、許せ」
国王の疲れたような声に、宰相が頭を下げる。
(余としたことが、パウルゼンに当たるとは。だが、如何にする?今の教皇であれば神託など金次第で何とでもなろう。神託を受けてそれを拒否すれば、ヴェレクとの関係悪化は避けられぬ)
(陛下が、ここまでおやつれとは。グズルめ、許せぬ。しかし、神託まで持ち出すとは、厄介なことになった。いっそのことあの少年を、ヴェレクへの大使に任命するか?ドミニコ枢機卿猊下と何らかの関係があることには間違いない。猊下であれば、神託の偽装を許さぬだろう。いや、現在の正式な大使がいながらそれはできぬか。しかもあの少年は貴族ですらない。今この情勢で貴族どもを刺激することはできぬ)
二人、しばらく熟考するが、妙案は浮かばなかった。
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