少年、苦悩す⑤
「ダークエルフの嬢ちゃんに、話がある。少し面貸してくれねえか。なに、悪いようにはしねえさ」
ライラは困ったようにラルカを見る。ラルカが小さく頷くと、ライラが小走りでダイガンに近づいた。
「あ、あの、ダイガンさん」
「すまねえな。すぐ終わるからよ」
「さ、先ほどは、失礼しました!!」
ライラが頭を下げた。
「あなたほどの偉大な義勇士に、わたしのような駆け出しの半人前が生意気な口をきいてしまいました。申し訳ございません」
ライラの言葉にダイガンは一瞬あっけにとられたが、ぷ、と吹き出し、
「はははははっ、何を言うかと思えば。なに、気にするな、久々に度胸がある奴を見れて、礼を言いたいくらいだぜ」
「と、とんでもないです」
ライラは再び頭を下げた。ダイガンはまだ笑っている。上機嫌なようだ。
「ま、そりゃいい。そんで話だがな」
ダイガンが真顔になる。殺気は一切感じないが、ライラは緊張した。
「お前、狂戦士の栄誉に入る気はねえか?」
「・・・え?」
ライラはぽかんとしている。全く想像もしなかった提案だった。
「言っとくが、傘下になれって意味じゃねえ。俺たちの六人目のメンバーにならねえかって話だ」
「え、ええええ!?」
ライラが大声を上げる。
「別にそんな驚くこたぁねえだろうが」
「い、いえ、し、しかし、わたしでは、分不足でしょう!?他のメンバーの方と、実力差が違いすぎるのでは!?」
「いや、嬢ちゃんの実力は大したもんだと思うぜ。その年齢考えりゃ十分以上だ、いずれすぐ周りの連中に追いつくだろうさ」
ダイガンはそこで言葉を区切ると、それに、と続けた。
「なんか坊やたちとはいろいろあったが、別に俺らは坊やと敵対してるわけじゃねえ。嬢ちゃんが狂戦士の栄誉に入ってくれても、坊やたちとの付き合いを切れなんて言わねえよ」
ダイガンの言葉に、ライラが黙って何かを考えている。
「うちのスタルクの野郎とは面識があるみてえだしよ、奴はあれで面倒見がいいから、すぐになじめると思うぜ。もし今すぐが無理なら、学園を卒業したあとでもいい。どうだ?」
ライラは少し黙った。やがて、決心がつくと、ダイガンの目をまっすぐに見た。
「ダイガンさん」
「ん」
「わたしのような未熟者に、過分なお誘いをいただき、ありがとうございます」
ライラがダイガンから目をそらさず、「でも」と続けた。
「申し訳ございません。わたしにはやるべきことがあります。やらなければならないことがあります」
「それが何か聞いてもいいかい」
ダイガンの言葉にはとげがない。純粋に聞きたいだけのようだ。
「わたしを救ってくれた人に、尽くしたいんです」
ライラは胸の前で手を合わせた。心の中に、その人の幼さの残る顔を思い浮かべる。
「その人は、わたしのすべてを救ってくれました。だからわたしは、その人のために生きたい。その人の幸せの一部になりたい。その人の近くで見続けたい」
ライラの顔に決意がこもる。
「だから、申し訳ありません」
頭を下げる。ダイガンはしばらく黙っていた。その間、ライラは頭を下げたままだ。
(先ほど考えていたのは、迷ってたわけじゃなく、どう断るかってことだけだったか)
ダイガンが苦笑いを浮かべた。
(やれやれ、この俺が一日に二回も同じ奴に負けるなんてな)
「頭を上げな、嬢ちゃん」
ライラが顔を上げ、ダイガンを見る。その目には黄金のように輝く覚悟があった。
「敵わねえな、嬢ちゃんには。残念だが、無理強いはできねえ。ま、気が変わったらいつでも言いな。待ってるぜ」
ライラはまた頭を下げた。ダイダンはふと、後方で見守っているラルカに視線を向けると、
「なあ、嬢ちゃん」
ダイガンの顔がいたずらを思いついた子供のようになった。
「あの坊やに惚れてんのかい」
ライラの時が止まった。数瞬後、ライラの全身が真っ赤になり、頭から蒸気が出た。
「な、ななななななななな、なな何を言ってるんだ!!!ららら、ラルカはた、大切な仲間ってだけだ!!かかか、勘違いするな!!!!!」
「お、どうやら図星だったようだな。安心しろよ、こう見えて俺は口が堅いんだ、秘密にしといてやるぜ」
「~~~~~~~~っ!!!?!!?!!!」
ライラの声にならない悲鳴が轟いた。
「ぎゃははははっ!!何だそりゃ?ダイガン、ずいぶんと色男になったじゃねえか、ええ?」
行きつけの高級酒場で、スタルクの笑い声が響いた。
「うるせえぞ、男の勲章って言いな」
頬に大きな手形をつけたダイガンが、そこをさする。結構痛えな、とふと思った。
「ははは、しかしライラの奴、そこまで元気になったとはな、何よりだぜ。もう心配いらねえようだな」
「生意気って言うんだよ」
上機嫌なスタルクと違い、ナツメは不愉快そうにつぶやいた。
「しかしダイガンさん、いいんですか。ダイガンさんに手を上げておきながら、ただで済ませておいて。示しがつきませんよ」
「だからおめえは女にもてねえんだ、リキッド。いい男ってのはな、女のわがままを許してやるもんだぜ?」
そう言って両隣にいる踊り子を抱き寄せる。
「あんな小便臭い小娘が、女だってのかい?」
ナツメはまだ不機嫌そうだ。ゲルが止めるのも聞かず、エールを先ほどから何杯も飲んでいる。
「確かに、まだガキだがな」
ダイガンは機嫌よさそうに笑い、ウイスキーをロックで飲み干す。
「あの嬢ちゃん、いい女になるぜ。あと十年もすりゃあな。あの坊やは果報もんだぜ」
踊り子にウイスキーを注がせると、再び飲み干した。その日の狂戦士の栄誉の酒場での会計は、ここ数年で一番高額になった。
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