少年、苦悩す④
「さっきの詫びってわけじゃねえんだが、いいことを教えてやろう」
ダイガンが少し声色を変えた。
「お前ら、死んじまった獣人の子がどこにいるか知っているかい」
「!!?」
ダイガンからの思いもよらぬ言葉に、全員驚きを隠せなかった。
「今まで騎士団が調査のため預かっていたらしいが、王都の内壁外北西部にある教会に移動したらしいぜ。どうやらそこで葬儀をやるみてえだ」
「な、なんでにゃ!?教会が!?」
カレンが悲鳴に近い声を上げる。獣人の葬儀は哿韻の国で広く信奉されている四界教(通称:神獣教)で執り行われるのが一般的だった。
「さあな、理由はわからんが、確かな情報だ。それに、もう一つとんでもねえ事実がある」
ダイガンが少しいやなものを思い出すような顔をした。彼自身、この事件について嫌悪感を持っているようだった。
「その教会の司祭ってのが、今回の事件を騎士団に報告した野郎だ」
「なんだって!!?」
「お前らもそいつらと会ったことあんだろ?何しろその司祭の野郎、“たまたま”あの日布教のためスラムに行って、“たまたま”あの事件を知ったらしいからな。そこの獣人の嬢ちゃんは知ってんじゃねえか。普段は教会の奴ら、スラムに布教どころか近づきもしねえってな」
「・・・」
ライラたちは全員黙った。色んな点と点が不思議なほどつながっている。とても偶然ではなく、人為的なものと考えるのが自然だった。
「ま、とにかく一度そこへ行ってみるこったな。葬儀は明日だ、急いだほうがいいぜ」
「・・・」
ライラがジュリアンを見ると、ジュリアンも無言でうなずく。それを肯定と受け取ったライラは、再び膝をつき、ラルカと目線を合わせた。
「ラルカ、一度その教会に行ってみないか?何かわかるかもしれない」
ライラが優しく尋ねる。ラルカは少し間を開けて、小さな声でつぶやいた。
「・・・もうしないで」
「え?」
ライラがぽかんとする。
「ライラ、僕のために、死のうとしないで。さっき、ダイガンさんを謝らせるために、死のうとしたでしょ」
「・・・」
図星を突かれたライラは何も言えない。嘘を言ってもラルカには見破られるだろう。
「お願い。あんなことしないで。さっきダイガンさんは殺すつもりなかったからよかったけど、もし違う人が相手だったらほんとに殺されちゃうかもしれないんだよ」
(よく言うぜ。あのとき、とんでもねえ殺気を俺に向けていたのはどいつだ)
ダイガンが心の中で舌打ちした。先ほどの怒りは本気だったが、殺すつもりはなかった。あの場面、本気で殺そうとするとラルカとの衝突は避けられず、お互いが必殺の間合いに入っていたため、どちらか、もしくは両者ともただでは済まないことを察知していた。ただ、ライラに少し脅しを入れたかっただけだった。だが、ラルカはダイガンに向け、雷神のような殺気を突き刺さしていた。それは雄弁に、“ライラに指一本でも触れてみろ、貴様を生かして帰さない”と言っていた。その強さはダイガンが放っていた偽の殺気のそれではなく、本気のものであった。
「お願い、ライラ。約束して。僕、ライラのお父さんとお母さんにした約束を破りたくない。それに・・・」
ラルカの目に涙が再びにじんだ。
「僕、ライラにまで死なれたくないよう・・・」
嗚咽が漏れる。ライラは胸が締め付けられるような痛みを感じた。だが、その痛みはライラにとってとても大切な物と感じた。甘酸っぱい感情が胸にあふれだし、それを抑えるようにライラはその胸にラルカを抱きしめた。
「ごめんな、ラルカ。約束する。お前をおいて、死なないさ」
「ほんとに?」
「ああ、本当だ。だから泣くな。男の子だろ」
ライラがラルカの顔を両手で挟み、右目をウインクする。ラルカが右腕で乱暴に目元を拭う。照れ隠しもあるのだろう。ライラに大きくうなずくと、ダイガンに視線を向けた。
「ダイガンさん」
「ん」
「さっきはありがとうございました」
頭を下げる。
「ラルカ?」
「ライラ、さっき、僕のために怒ってくれてありがとう。でも、ダイガンさんの言ったことは正しいと思うんだ。確かに僕は、世間知らずで子供だった。ダイガンさんは、そんな僕を叱ってくれたんだ。おかげで、少しだけ、成長できた気がするんだ」
ダイガンは頬をぽりぽりとかく。
「だから、ありがとうございました。ダイガンさんの言葉を胸に刻んで、これから何をすべきか考えます」
「よせ」
ダイガンがばつの悪い顔をした。
「坊やとはいろいろあったからな。少しからかってやろうと思ったのも事実だ。礼を言われるこっちゃねえよ」
「それでも、ありがとうございました」
ダイガンは顔を背け、右手を振った。ラルカが顔を上げると、
「みんなもごめん。心配かけて。僕はもう大丈夫だよ。さ、行こう」
ラルカの久しぶりに見た笑顔に、みんなも笑みを浮かべた。ラルカがダイガンにもう一度頭を下げ、歩き出した。ダイガンはそれをしばらく眺めていたが、
「ちょっと待ちな」
ダイガンの声に、全員の脚が止まった。
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