少年、君は何をするべきか③
「クリスティーナ王女とアウグスト王子は、元々は仲が良い姉弟だった」
ライラたちは驚いて顔を見合わせた。ライラたちが知っている二人からは想像ができなかった。
「クリスティーナ様がお生まれになって数十日後にアウグスト王子がお生まれになった。そのため、お二人は同い年であるが、姉弟となったのだ。お二人は年の離れた兄であるフリード王子と三人で、いつも遊んでいた。フリード王子とお二人は腹違いで、しかもクリスティーナ様は妾腹ではあったが、フリード王子はそんなことは関係なく接しておられた。だが」
ハルがそこで息をつく。
「フリード王子が獣人の謀反によりお亡くなりになった。お二人は大変悲しまれた」
カレンが異を唱えようと身を乗り出したが、ジュリアンに肩を掴まれたため、抑えた。
「その後アウグスト王子が王位継承権一位となった。皇太子宣下ののち、王子の伯父であるシザリオ辺境伯がその後見人となった。そして彼は、フリード王子暗殺の報いを受けさせるため、獣人国の哿韻へ宣戦布告するよう国王へ求めた」
「なんだって!」
「ひでえ野郎だな」
ライラ、ゴンゾの二人が怒りをあらわにする。カレンに至っては感情を爆発させないよう、必死に歯を食いしばっていた。
「さらに、彼はクリスティーナ王女を王城から追放するように要求した。だが、宰相ベルンシュタイン様はそれを拒否した。フリード王子の死の翌年、前任の騎士団長がお亡くなりになり、私が後を継ぐこととなった。私はベルンシュタイン様に同調し、奴と対抗することになったのだ」
いつの間にか“彼”から“奴”へと変わっていたことが、ハルのグズルに対する感情が見て取れた。
「それで貴殿たちは、フロイラン・クリスティーナを対抗馬としたということか」
その言葉に、ライラたちが「あっ」と声を上げた。ハルは黙っているが、その表情で答えは明らかだった。
「・・・他に継承権を持つ者はかなり年長の陛下の叔父か、陛下の弟君、その子息達になる。誰を立てようとも陛下の子息であるアウグスト王子には対抗できぬ。それに、最悪内戦にもなりかねない。クリスティーナ様であれば、王城内の権力闘争で済む」
本音は、あんな馬鹿どもを王に祭り上げるなどまっぴらごめんだ、と思ったがさすがに口には出さなかった。
「それからは奴と我らとの間で、次期王をめぐっての駆け引きの日々だった。その中で二人の間には、徐々に亀裂ができてしまった。だが、クリスティーナ様はそれでもアウグスト王子にお優しかった。アウグスト王子も、グズルの目の届かぬところでは、クリスティーナ様を慕っていた。クリスティーナ様がお淹れになった紅茶を二人で飲みながら、お話になることが多かった」
「じゃあ、なぜあの二人は今、仲違いしているんだ?」
ライラの問いに、ハルは口を閉ざした。ここまで話したが、言っていいものかまだ迷いがあった。
「三年前の事件が原因か」
ジュリアンの言葉にハルの目が見開かれる。頬を汗が伝った。ジュリアンを見つめる。ハルは観念し、一つ息をついた。
「三年前、クリスティーナ様の母方の祖父であられるリングヴォルド男爵が、教会の許可なくポーションを市井の者へと配ったことに対し、大司教ブラバドとグズルが抗議をした」
「なんであの二人、仲がいいんだっぺ?」
「ブラバドを大司教に推薦したのがグズルだからな。元々ブラバドは黒いうわさが絶えぬ男で、グズルからも賄賂を受け取っていたと聞く。リングヴォルド男爵の件は領民を救うための緊急な行為と判断し、宰相と私は問題なしとし、陛下もそれに賛同しておられた。だが」
ハルが手を強く握りしめる。
「クリスティーナ様とアウグスト王子がいつも通り紅茶を飲まれている最中、突如アウグスト王子が倒れた」
「なにっ!?」
ライラたちが驚きの声を出す。だが、ラルカとジュリアンは黙ったままだった。
「幸いすぐに健康を取り戻したのだが、調査した結果、紅茶に水魔法毒化がかけられていたことが判明した。グズルは犯人をクリスティーナ様と決めつけた」
「な、なぜにゃ?」
「クリスティーナ様はその時からすでに水魔法を使えていたからな。だが、別に証拠があったわけではない。ただ、“やろうと思えば可能だった”だけにすぎなかった。だから私も、宰相閣下も取り合わなかった。王子も信じなかった。だが、大司教ブラバドが、クリスティーナ様が犯人だと“神託”があったと言ったのだ」
その時、ラルカの眉がピクリと動いた。
「神国ヴェレクにも確認したが、神託は間違いないと言われてしまった。神託は絶対的なものだ。アウグスト王子はクリスティーナ様に裏切られたと信じ、それまでの愛が憎しみへと変わり、クリスティーナ様を死罪にしろとまで言った。仕方なく陛下はクリスティーナ様とご母堂を追放処分にした。今思うと、お二人の命だけでも助けようとされたのであろう。リングヴォルド男爵も爵位をはく奪され、全員平民となった。それからだ、アウグスト王子が傲慢になったのは。君たちは信じられないだろうが、元々は素直な性格の方だったのだ。奴が後見人でさえなければ、少なくとも私は王子が次期王でもいいと思っていたくらいだからな」
言い終えると、ハルはため息をついた。その表情は何処か安堵したようにも見えた。
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