少年、君は何をするべきか②
「まさか、クリスが、国王陛下の娘だったとは・・・」
騎士団長の私室にて、ライラが驚きの声を上げる。ラルカも、カレンも、ゴンゾも同様に驚愕の表情を浮かべていた。一人冷静だったのはジュリアンのみだった。
「すまないが、このことは他言無用で頼むよ」
騎士団長ハルの言葉に、ジュリアン以外の全員が頷いた。
(まったく、最近の子供はさかしいな。まさか騎士相手にカマをかけるとは)
ハルは内心で舌を巻いた。彼はジュリアンが千年以上生きたヴァンパイアであることを知る由もないため、その驚きも無理はない。以前からクリスティーナに対し疑念を持っていたジュリアンが確信したのは、先ほどの騎士とのやり取りだった。ただの元男爵の孫娘程度のクリスティーナに対しメイドを二人付けること自体が異常であるし、彼女が肉が苦手であることを知っていたことも不自然であった。決定的だったのは、王侯貴族でもなかなか食することができない高級食材を二つも提供していたことだった。
「意外と簡単にお認めになるのだな」
「私はこう見えて正直者なのだよ」
ハルがジュリアンを苦々しく見つめる。
(先ほど廊下でごまかそうとしたら、わざと大きな声で聞いてきたのはどこの誰だ。本当に食えぬ子供だ)
ハルとしては、騒ぎになるのを防ぐため、自身の私室に招いて告白するしか手段がなかった。
「じゃ、じゃあ、クリスってお姫さまってことなんだべか?」
「正確に言えば、王女と言う身分ではない。クリスティーナ様のご母堂、レティシア様は愛妾だからな」
「要は浮気だろ」
ライラが嫌悪感を隠さず吐き捨てる。
「陛下は前王妃が崩御された後、政略結婚でシザリオ辺境伯の妹であるメラニー様を王妃として迎えたのだが、不仲でな。侍女として仕えていた、心優しいレティシア様に惹かれたのだろう。だが、王妃とシザリオ辺境伯はお怒りでな、公妾にはできなかったのだ」
「王妃様こそ、浮気の噂が絶えんようだが」
ジュリアンの言葉に、ハルは黙った。王妃に愛人がいることは公然の秘密である。それも一人や二人ではない。アウグスト王子が王の実子ではないとのうわさもまことしやかに流れているが、さすがにこの場では口にしなかった。
「騎士団長殿、重ねて聞きたいことがある。一つ、なぜアウグスト王子とフロイラン・クリスティーナは不仲なのか、なぜフロイラン・クリスティーナのみ調査継続中なのか、お答えいただけないか」
ハルは黙り込んだ。この子に対し虚言は通じない。真実を言っていいのか、即決できかねた。
「じゅ、ジュリアン、何を言い出すんだ?」
ライラが戸惑った声を上げるが、ジュリアンは取り合わない。
「三年前、クリスティーナ王女は王城を追放されたと聞く。表向きは彼女の祖父が原因とのことだが、本当の理由は別なのではないか?そして、それこそが先の質問の答えなのではないか?」
ハルは黙っている。が、心の中では動揺していた。
(一体、どこまで知っているのだ。何者なんだ、この男は)
彼らを調査したが、このダニエル・クリストフとラルカ・エルメルについては出生が不明だった。正直ダニエルについては重要人物と思っていなかったため、詳細な調査すら行っていないが。
「ご安心いただきたい。当然他言はしない。我らの目的はクリスティーナ王女の無実の証明、それだけだ。そしてそれは、騎士団長殿の目的とも一致するであろう?」
ハルは答えない。先ほどからただの十五歳の少年(と思っている)にいいように操られている気がする。一瞬答えてもいいと思ってしまったが、彼の目的が本当にそれだけなのか、確証が持てなかった。
(しかし)
ハルが今度はラルカを見た。先ほどから黙ったまま下を向いて何かを考えている。
(もっと警戒しなければならないのはこの子だな。学園随一の天才にして、魔女殿の秘蔵っ子、そしてドミニコ枢機卿猊下の縁者か。戦闘力で言えば、下手をすればあのダイガンにも匹敵するかもしれぬとのことだが、本当だろうか)
敵にした場合は恐ろしく、味方に引き入れたとしても扱いに困る。本音を言えば関わり合いになりたくはなかった。だが、時すでに遅し。
(敵とするより、味方にしたほうがまだいいか)
一旦息をついたハルは、部屋の外にいる騎士に声をかけ、副団長を連れてくるように命じる。
「お呼びですか」
副団長ホルストがやってくる。ホルストにとって騎士団長は、平民出身である自分を副団長まで取り立ててくれた恩人であり、最も尊敬する人物だった。
「ホルスト、すまないが人払いをしてくれ。君以外の人は誰も部屋に入れないように。頼む」
「はっ」
ホルストが扉を閉めると、騎士たちを遠ざける声が聞こえた。ハルはもう一度息をつき、顔を上げた。
「まず、私が知っていることは今から話すことだけだ。それ以上は本当に知らぬ。いいね」
ジュリアンが頷く。ハルは昔を思い出すように、斜め上を見上げながら訥々と話しだした。
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