少年、捕えられる②
「学園の教師陣にも、もう少し聞き取りできればよかったのだがな」
「奴のせいですよ。何の役職でもないのにしゃしゃり出てきやがって」
騎士の言葉に副団長も顔をしかめる。今回の事件を騎士団に報告したのは教会の男だった。スラムへ布教に行っていたというその司祭は事件を偶然知ったという。その司祭は協力する、と言って捜査に勝手について来た。彼は初めからラルカたちを犯人と決めつけている様子だった。ただ、たしかにラルカたちには詳しい事情を聴く必要があると判断したため、配下に命じ彼らを連行させたところ、
「学園の者たちにも共犯者がいるかもしれませんぞ。連中は全員あの学園の生徒たちですからな」
副団長は仕方なくその司祭とともに学園へと向かい、教師や職員へ事情聴取をすることにした。初めは教師たちも協力的だったが、司祭が犯人をラルカたちへと決めつける発言をしたところ、教師たちの顔色が変わった。特に寮の責任者であるグリメルの怒りはすさまじかった。
「とっとと帰んなさいよ。全員ぶち殺されたくなかったらね」
悪鬼の如き形相で殺気を放つグリメルの前に、副団長は事情聴取を打ち切らざるを得なかった。ホルストも副団長を務めるほどの実力者である。グリメルの言葉がただの脅しではないことをすぐに察知した。
「それと、ギルド支部長の魏旬殿も非協力的でして。一応聴取には応じていただきましたが」
「あの御仁と王城との間にはいろいろあったからな。無理もない」
魏旬というのはヒショウの本名である。魏が姓、旬が諱になる。しかし、哿韻では本名は国へ提出する書類など以外ではほとんど使用されず、代わりに字という仮の名前が一般的に使用され、飛蕭が字にあたる。ただしルクスカーナ王国では、奴隷やカレンのような元奴隷の子には本名を名乗る権利は奪われている。
「まあ、一旦は薬瓶の調査結果を待とう。僅かだがポーションも残っていた、何かはわかるはずだ」
「失礼します」
ちょうどその時、部屋の外から声がした。副団長はいいタイミングだ、と思い、入室を許可した。
「宮廷魔術師に依頼した、薬瓶及びポーションの調査結果が出ました」
「そうか、どうであった?毒物は検出されたか」
「いえ、検出されませんでした」
「なんだと?」
副団長だけでなく、他の騎士たちも顔を見合わせる。
「では、ポーションに問題はなかったということか」
「いえ、毒物は、発見されなかったのですが・・・」
「ですが、なんだ」
「はあ・・・」
「明確に回答せよ」
副団長は少々苛つきながら続きをうながす。騎士は一時逡巡したが、意を決した。
「毒化がかけられた形跡が見られました」
その言葉に、副団長が立ち上がった。他の騎士たちも驚きで声が出せない。
「確かか」
副団長がやっとの思いで一言発した。騎士は小さく頷いた。
「・・・彼らの中で、水魔法の心得がある者は」
「ドワーフのゴンゾ・ブロームと、クリスティーナ・リングヴォルドの二名です。しかし、ブロームは素養があるだけで、水魔法はほぼ使用できないようです」
「そうか・・・」
副団長が再び黙り、椅子に座り込んだ。仮に彼らの中に犯人がいるとするならば、可能性は一人となった。
「副団長、このこと、団長にもお伝えすべきでしょうか」
「そうだな、私から報告しておこう。皆、今回の件は口外しないように。特に教会関係者にはな」
「はっ」
副団長は一息つき、
「三年前と同じか」
思わずつぶやいた。
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