少年、捕えられる①
「今から十五年前に起こった666日の冬は、冥府の門が開いたことが原因で発生した。だが、それよりも前、今から約千七百年前にも、一度冥府の門が開いた」
久しぶりの授業、歴史担当スノーリ教諭の声が響く。だが、その場にラルカたちはいない。クラスの様子も、沈んだままだ。
「その時も魔物の増加や狂暴化、気候変動により、世界の人口が三分の二になったという。それが333日の冬じゃな。だが、それよりも恐ろしかったのが、“魔人”の急増じゃった」
スノーリ教諭自身の心も晴れない。ラルカたちのことが気になり、どこか上の空だ。
(いかんな、確かにラルカ君たちのことは気にかかる。じゃが、わしはこの子たち全員の教師じゃ。この子たちのためにも、しっかりせねばな)
「魔人とは、人型の魔物ではなく、人間の魔物のことじゃ。遥かなる太古から存在するが、ごくごく少数じゃったのが、333日の冬で急増したのじゃ。魔人どもは自分たちの国を作り、その王であるアロケルと言う魔人は、聖魔大帝と名乗った」
黒板に聖魔大帝アロケルと書く。
「奴は多くの魔人、魔物を率いて我ら人間の国を滅ぼそうとした。じゃが、魔人どもは滅亡した。我らが学長ヨミ様と、エルフ国国王フロート様の二人に滅ぼされた。じゃから、今の世には魔人はおらん。みな、学長には感謝するようにな」
正確には魔人討伐にはカーミラも参加していたが、人間の歴史で彼女の活躍はなかったことになっていた。最後はおどけるようにスノーリは言ったが、教室の空気は重いままだった。
「副団長、一通り尋問終わりました」
「ご苦労」
配下の騎士からの報告に、疲れたように騎士団副団長ホルスト・ティリングハーストはため息をついた。
「して、どうであった」
「全員の供述にほぼ矛盾ございません。一人、獣人の華蓮と言う少女が動揺がひどく、聴取するのに時間がかかりましたが」
配下の騎士が渡した調書を受け取った。昨日、リリの死を知ったラルカたちのところへやってきたのは、どこからかそれを知った騎士たちであった。状況からリリの死は自然死ではなく事件と判断した騎士により、王城へ調査のため連行され、今日の夕方まで尋問を受けていた。
「被害者に最後に会ったのは、先ほどの獣人の少女と言うことだが、被害者との関係は?」
副団長は別の騎士に聞いた。
「良好です。以前から獣人の少女は被害者を含めたスラムの子供の面倒を見ていたようで、彼女に動機があるとは思えませんでした」
スラムへ調査に出かけていた騎士がはっきりと断言する。
「死因は、やはりポーションか」
「恐らく。被害者に目立った外傷はありません。ポーションを飲んだ直後に倒れた、との証言もあります。残された薬瓶の調査結果はまだですが、ほぼ間違いないでしょう」
副団長が頷く。状況から考えると、最も怪しいのはリリに薬瓶を渡したカレンであるが、彼女には動機がない。取り調べの様子も見たが、憔悴しきっており、演技をしているようにも見えなかった。となるとポーションの製造の中心的役割をしているクリスティーナ・リングヴォルドかラルカ・エルメルが怪しいが、二人とリリの間にはトラブルどころか接点すらほとんどない。と言うより、まだ幼いリリが殺されるようなトラブルを抱えているとは考えにくい。
「では故意の殺人ではなく、ポーションの不良による事故かとおもうか」
「どうでしょう。もしそうであれば、製造方法から判断するに複数人で症状が現れたと思いますが」
副団長はだよな、と呟くと、また一つため息をした。
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