少年、人の醜さを思い知る①
「東の区間では、新たな感染者は見当たらなかった」
「西側も同じだべ」
ライラとゴンゾの報告を受け、ラルカたちはほっと一息ついた。王城に呼ばれてから数日、遅れを取り戻すように休みなくポーションを作り続け、さすがのラルカとクリスティーナも疲労を隠せない様子だった。忙しさに王城でのことはすっかり忘れたようだった。
「お疲れ様、二人とも」
「疲れているのはお前たちだろう。一旦薬草づくりを休んでもいいんじゃないか?」
「大丈夫ですよぅ。沢山あるに越したことはないと思いますしぃ」
クリスティーナがない力こぶを見せる。ライラとゴンゾは心配そうに顔を見合わせた。
「失礼するよ」
ドアの向こうからノックの音と同時に声がした。入ってきたのは長柄武器の担当教師、グラン・ドゥニである。
「あ、グラン先生、いつもありがとう」
「気にしないでくれ。我らにできることはこれぐらいだからな」
ドゥニ教諭は温和な表情でほほ笑み、教師たちが集めてくれたケヒト草の入った袋を机の上に置いた。
「君たち、一生懸命なのはいいことだが、体には気をつけるんだよ。私たちだって君たちの教師なんだ。頼ってもいいんだからね」
「はい、先生」
「あ、あと、知っての通り、明日から授業始まるから、今日は早めに寝なさい。君たちは学生なんだからね。授業は休まないようにしなさい」
ドゥニ教諭はそう言い残して去って行った。現在臨時休校中の学園教師たちは、初めギルドに協力してケヒト草の採集をしていたが、ラルカたちの活動を聞いて、ヨミ不在時に学長代理をしているシュバルツ教諭がギルドではなくラルカたちへケヒト草を届けることに決めた。ロベスピエール教諭は「生徒の本分を外れている」と説教したが、最後は認めてくれた。彼らが届けてくれるケヒト草はラルカたちが集めている量に比べると些細な量ではあったが、ラルカはその心がうれしかった。
「ふむ、ケヒト草はもう十分集まりましたな」
ジュリアンがドゥニ教諭からもらったケヒト草と在庫を見て判断し、ラルカもうなずいた。
「先生たちに感謝しなきゃね。後、ダイガンさんたちも」
「ああ、まさか狂戦士の栄誉まで協力してくれるとはな」
意外にも狂戦士の栄誉も、集めたケヒト草をラルカたちへ寄付してくれた。初めに代表してリキッドが持ってきたときはラルカ以外全員警戒したが、
「教会の行動に嫌気がさしているのは、我々も同じだ」
と言った彼が嘘をついているようには見えなかった。
「ただいまにゃ」
カレンが顔を出した。
「お疲れ様、カレン。スラムの様子はどうだった?」
「感染者殆んどいなくなったにゃ。ゼロじゃにゃいけど、確認されている人は全員ヒショウさんの家に集めたから、これ以上拡大しないはずにゃ」
「そっか、その人たちに配れば、ひとくぎりだね」
ラルカが疲れた目をこする。
「恐れながら我が君、スラムの感染者への配布が終わりましたら、しばらくお休みされたほうがよろしいかと愚考いたします」
ジュリアンもラルカの体調を気遣っている。
「うん、ありがとう。クリス、今あるケヒト草の分だけ溶解作業までやったら休んで。みんなもお疲れさま。明日から授業も始まるし、しばらく休んでて」
「ラルカはどうするんだ」
「僕は大丈夫。疲れてないから」
そう言ったラルカの頬を、ライラがつまんで引き延ばした。
「ふにゃにゃ、なにふるほ」
「お前も休むんだ。お前が休まないと、わたしは休まないからな」
「そのとおりにゃ。一番働いているのはラルカとクリスにゃ。二人とも疲れてるはずにゃから、休まなきゃダメにゃ」
「我が君、どうか御体をご自愛くださいませ」
「・・・わかったよ」
しぶしぶ、と言った感じで返事をしたラルカの頬を、ライラはやっと離した。
「でもぅ、作ったポーションはどうしましょうぅ。スラムの感染者の方全員に配ってもだいぶ余りますよぅ。全部保管でいいでしょうかぁ」
「うーん」
ラルカが少し考える。
「いや、保管は半分でも十分だよ。残りは念のためスラムの人たちの中から、感染した時に重病化しやすい子供やお年寄りにできるだけ配ろう。他の病気の予防にもなるし」
ラルカがみんなに「どう?」と問いかける。
「賛成だ」
「いいんでねえか」
「はいぃ、私もいいとおもいますぅ」
「カレンはもちろんにゃ!」
「全ては、我が君のお心のままに」
ラルカはにっこりと笑った。
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