少年、舌戦でも圧倒す。・・・だが⑥
「わぷぅ・・・わぷぅ・・・」
ラルカがライラの背中で奇妙な寝息を立てている。先ほど行われた舌戦で自然体ではない話し方を長時間したために疲れて眠くなったらしい。
「まったく、あんなことあったばかりなのに、大物なんだか呑気なんだか」
そんなことを言いながら、ライラはラルカの頬と自身の頬を摺りよせる。
「んみゅ・・・」
ラルカは一瞬起きかけたが、再び夢の世界へと旅立った。
「それにしてもさっきのラルカはすごかったにゃ。いつもの可愛いラルカとはまるで別人だったにゃ」
「ええ。それにぃ、これで今まで通りぃ、ポーションを作ることができますぅ。ラルカさんのおかげですよぅ」
クリスティーナの表情には安どと喜びが見えた。それに比べてジュリアンの表情は冴えない。
「どしたべおめえ。ラルカが勝ったってのに、いつもだったら「おお、我が君はなんてすばらしいことだべ!」とか言ってんのによ」
「・・・確かに此度の舌戦は我が君の圧勝でした。しかし、少々勝ちすぎたと」
「勝ちすぎ?」
「それの、何が悪いにゃ?」
「舌戦、特に貴族相手のそれは、完全なる勝利よりも引き分けよりやや優勢での決着、ぐらいがちょうどいいのです。五分とは言わないまでも、少しは相手に華を持たせてやらないと。名誉を傷つけられた貴族の逆恨みは皆様の想像より遥かに厄介なので。基本的に怠惰な奴らが動くのはイデオロギーなどでは無く、ただの自尊心からですから」
その言葉に、一同が黙り込む。全員大なり小なり貴族には嫌な目にあわされたことがあるからだ。ただ、ラルカがグズルと大司教の二人に対し過剰に攻撃した理由は、ライラを守るため、そしてライラの憎しみの心を少しでも晴らすためであり、それにジュリアンは気付いていたが、口には出さなかった。
「まあ、気にしていてもしょうがない。今はただ全員無事に無罪だったことを喜ぼうじゃないか。さ、いったん寮に戻って、食事にしよう」
ライラが明るい声を出すが、重い空気はなかなか晴れなかった。確かにラルカの才覚は人並外れている。戦闘力に限らず、頭脳でも。しかし、戦闘以外の経験については並みの十二歳、いやそれ以下かもしれない。ラルカの知識はすべて本で得たものであり、頭で理解出来ていても経験で固着させたものではない。それゆえ、実用するうえで潤滑剤の役割をする細かい知識がない。簡単に言えば応用が効かない。また、周りにいた人間が人格も一流の者たちがほとんどであることも災いした。人との意思疎通には怨恨と言う摩擦が発生することを知らなかった。力を持たずとも恐ろしい人間がいることも知らなかった。何より、人間は精霊でも魔物でもないが、欲望を肥大させた人間の醜さが魔物のそれを凌駕することを知らなかった。
「お、おのれ平民の小僧が、このグズルに恥をかかせおって、ただでは済まさぬ」
「全くじゃ、生意気なガキが、大司教たる私に教義を説くなど、三十年早いわ」
グズルと大司教は大聖堂の一室で憤慨していた。部屋の中は豪華な美術品が多数ならび、煌びやかな飾りが星のように輝いている。部屋の主の心とは正反対に。
「あの小僧、どんな目に合わせてくれようか。わしの名誉を傷つけた罪は必ず償わせてくれようぞ」
「だが、どうするのだ。あの暗愚のせいで、彼奴らの行動が正当化されたぞ」
「強行手段をとるか?」
「それはまずい。あの小僧の正体がわからん。殺した場合、ドミニコ枢機卿とのつながりがある可能性がある以上、最悪のことになりかねん」
大司教の言葉にグズルが冷静になる。それに強硬手段と言っても、狂戦士の栄誉の連中は頼れない。
「大司教、今厄介なのは小僧ではない。あの女だ。奴の意志にかかわらず、間違いなく騎士団長は動く。そうなるとあの暗愚が何を言い出すかわからぬぞ」
大司教も冷静になる。二人とも権謀術数によりここまでの地位を築いた男たちである。冷静さを取り戻すと先ほどまでの怒りをいったん忘れ、知恵を巡らせ始めた。
「要は、あの女が失脚すればいいわけだ」
大司教がいやらしい笑みを浮かべた。
「策があるのか」
「ああ、第一あの女には“前科”があるではないか。また、罪を犯していただくとしよう、我らのためにな」
「・・・なるほど、良い案じゃ」
グズルも笑みを浮かべた。
「全ては、神のお導きよ」
お読みいただきまして、ありがとうございます。
ご感想、評価、リアクションお待ちしております。
しばらくは毎日投稿しますので、応援よろしくお願いいたします。




