少年、舌戦でも圧倒す。・・・だが②
「我が名はグズル・フォン・シザリオである。王の名のもとに、審議を執り行う」
(この男か)
全員が思った。アウグスト王子の伯父であり、フリード王子暗殺の真犯人候補のひとり。そして狂戦士の栄誉と契約している男。辺境伯と言えば貴族の中でも公爵に次ぐほどの地位のはずだが、そんな威厳は感じられなかった。グズルはラルカたちを見下げると、ちらりと王へ視線を向け、心の中で舌打ちした。
(しゃしゃり出てきおって。忌々しいことじゃ)
王子からの報告を聞いた翌日さっそく王城にやってきたグズルと大司教は、王へ審議を行うよう要請した。意外にもあっさりと許可をもらったが、まさか王自身が審議に同席すると言い出すのは予想外だった。
(あの女が一味にいることを知っていたのか。それとも宰相の入れ知恵か)
宰相を一瞥し、今度は本当に舌打ちし、ラルカたちに視線を移した。
「本日の件は、その方らが、無許可でポーションを取り扱っていることじゃ。ポーションの取り扱いは教会に一任されている。これは明らかな王へ対する不敬である。だがその方らはまだ学生の身である。それを考慮し、今後ポーションの取り扱いをせぬことを誓うのであれば、罪に問うことはせぬ。今すぐ誓うと申すがよい」
グズルの言葉は審議でも何でもなく一方的な物言いであったが、王も宰相も黙っていた。
「恐れながら」
ラルカが口を開いた。ライラたちは頭を下げたまま、黙って見守っている。
「現在王都には、恐るべき疫病、死眼病が蔓延しており、市井の者たちに広がっております。しかしながら、十分な量のポーションが出回っておりませぬ。聞けば教会はポーションを配布ではなく販売しているとお聞きしました。このままでは貧しき者たちに死者が出ると思い、ポーションの製造と配布をしたまででございます」
その言葉に、王の眉がピクリと動いた。宰相が何か王の耳にささやく。グズルがまずい、と思った。
「お、お主たちが得たケヒト草を教会に寄付しておれば、教会が配布したわ」
「我らも初めはそう思い、大聖堂に持ち込みました。その際、司祭様になぜ無償で配布しないか尋ねたところ、こうおおせになりました」
ラルカは背筋を伸ばし、やや声色を変えて司祭の言葉を繰り返した。
「よいか、神は善行を行う者には慈悲を与え、悪しき者には罰を与えるのだ。富があるものは、善行を行ったからこそ富を得たのだ。貧しきものは悪行をつんだから貧しいのだ。だからこそ、薬も善人が救われるようにしているまでのことよ」
王の顔がさらに険しくなった。王は教会が有料でポーションを販売していることを知らなかった様子だった。
「今の言、一言一句相違ございません。神に誓います。このままでは貧しきもは救われないと考え、私がこの者たちに命じ、ポーションを製造、配布をしました」
ラルカの“命じ”と言う言葉にライラが反応したが、ジュリアンに抑えられた。
(こ、このガキが、大人しく聞いておれば図に乗りおって)
グズルの顔に焦りが見られた。
「そ、その方らはポーションをスラムの獣人どもにばかり配っているというではないか。それについてはどう言い訳をするのだ」
「調査した結果、最も疫病が流行っていたのがスラムの獣人街でございました。それだけでございます。なぜか教会の方は、患者が最も少ない王都中心街にのみ販売していたようだったので」
その言葉に嫌悪感を示したのは王だけでなく、宰相や騎士たちもだった。特に王に最も近い位置にいる立派な身なりをした騎士はグズルをにらみつけるのを隠してすらいない。彼が騎士団長ハル・ベルンシュタインなのだろう。
「きょ、教会にあったポーションには限りがあったため、少ない区間を優先したにすぎん。人聞きの悪いことを言うでない。き、貴様らが勝手なことをしなければ、教会がやっておったわ。出過ぎた真似をしおって、不届き者めが。教会の許可なくポーションを売ることはできぬと知ってのことか」
「販売ではなく供与です。教会の許可は不要なはずです。なぜ供与まで不許可なのか、明確なお答えを頂きたい」
「ポーションについては教会の仕事だ、勝手な真似をするな」
「答えになっておりません。しかも実際ポーションの数が足りていないと、先ほど仰ったではありませんか。それは教会での製造が間に合ったいないからではないのですか」
「ならば、お前たちは獣人以外にも配っていたのか。お前たちこそ、配る相手を選んでいたのではないのか」
「私共は、先ず最もポーションの量が足りていないスラム街を優先し配ったまでです。そちらが十分量行き渡れば、次に足りていない地区へも配っております」
「く・・・」
「ちなみに先ほど、お前たちこそ、と仰せになりましたが、お言葉の意味がわかりかねます。こそ、とはどのような意味でしょうか」
「ふ、深い意味なぞない」
「その深い意味とは、どのような意味を指すのでしょうか。私不届き者ゆえ、理解出来かねます。聡明なシザリオ閣下であれば、私のような不届き者にも理解できるようなお言葉でお答えできると存じます。お教え願いますでしょうか」
ぷっと吹き出したのは騎士団長だった。彼は一言
「失礼」
と言ったが、グズルをあざけるような目つきは隠せていない。
「ぐぬぬ‥」
「陛下、何とぞお願い申し上げます。寛大なお心で、ポーションを配る許可をいただきたく存じます」
ラルカは陛下に向直り、うやうやしく頭を下げた。
「無礼者めが。控えろ」
「無礼者とはあまりなお言葉。私は意見を述べているだけです。誰に対し、どのような無礼を働いたのか、お答えいただきたい」
「お前ごときが陛下に意見を言うこと自体が、無礼と言っている」
「これは異なことを。そのお言葉こそ陛下に対する侮辱かと存じます」
「なに!?」
「過去名君と謳われた王は皆、家臣からの忠言、諫言を受け入れる大器の持ち主です。逆に暗君の謗りを受けた王は、苦言を呈する忠臣ではなく、甘言ばかりを囁く奸臣を重用するもののことを言います。まさか閣下は、陛下が家臣から意見を言われただけで立腹する狭量なお心の持ち主と思っているのでしょうか」
「だ、たまれだまれ、許可など出すわけにはいかん、おい、騎士ども、こやつらをつまみ出せ」
グズルが顔を真っ赤にし、金切り声を出すが、騎士たちは白けたような顔をし、動かない。
「シザリオ辺境伯閣下、判断を下すのは陛下です。落ち着かれませ」
宰相が冷静な声を出すが、グズルは怒りの表情のままラルカをにらみつけている。
お読みいただきまして、ありがとうございます。
ご感想、評価、リアクションお待ちしております。
しばらくは毎日投稿しますので、応援よろしくお願いいたします。




