少年、王子と話す③
「アウ君がそんなに獣人を憎むのは、お兄さんのことがあったから?」
アウグストがまた足を止めた。
「お兄さんを殺した犯人が、獣人だったから、獣人を憎むの?」
アウグストが振り向いた。怒りの形相を浮かべている。だがそれはラルカに向けてではなかった。
「貴様が話したんだな、クリスティーナ!!」
激昂したアウグストがクリスティーナに向かって悪鬼の形相で近づいてくるが、従者の二人が羽交い絞めにして止める。
「お、王子、落ち着かれませ」
「放せお前たち、おのれクリスティーナ!命だけは助けてやった恩を忘れおって、あのとき死罪にしておればよかったわ!」
クリスティーナは怯えた表情で震えている。クリスティーナをかばうようにライラとカレンが彼女の前に立った。が、二人の顔にも動揺が見えた。
(何のことだ?何を言っているんだ?なぜクリスをここまで憎む?)
「アウ君」
未だ怒りが収まらないアウグストの前に、ラルカが相対した。
「どうしたの?お兄さんのこと聞いたのは僕だよ?」
「黙れ、そこをどけ、その女の首を刎ねてやる!」
「どけないよ。僕がお兄さんのことを知ったのはクリスからじゃないよ。だから落ち着いて」
「落ち着いていられるか!貴様もその女も獣人の味方か!?なぜ獣人の味方をするんだ!兄上を殺した獣人どもの!!」
「仮にお兄さんを殺した犯人が獣人だったとしても、ほかの無関係の獣人を憎んじゃだめだよ。そうなると、際限なく憎しみが大きくなるよ。お兄さんも、それを望んでないんじゃないかな」
「黙れ黙れ!貴様に兄上の何がわかる!!兄上は獣人にも手を差し伸べられていたんだぞ!兄上は本当に優しい方だった!誰にも、私にも、獣人どもにも!それを殺した獣人を憎んで何が悪い!」
「ごめんなさい」
頭を下げた。突然のことにアウグストが黙った。ライラたちも驚いている。
「お兄さんってアウ君にとって、本当に大切な人だったんだね。僕が無神経だったから、アウ君を傷つけちゃった。本当にごめんなさい」
再び深く頭を下げる。アウグストは何も言わず、ただラルカを見つめていた。
「ね、アウ君。お詫びのしるしに、今日僕たちと一緒にご飯食べない?僕、こう見えて料理得意なんだよ?ごちそうするよ」
「・・・・」
「僕、アウ君とも友達になりたいな。友達になるって、憎むよりずっと楽しいと思うよ?」
アウグストは何もしゃべらない。場を静寂が支配する。が、それも長くは続かず、アウグストの大きなため息がそれを破った。
「興が冷めたわ」
そのまま帰ろうと歩き出す。慌てて従者の二人がついてきた。従者の一人が部屋のドアを開けると、
「・・・獣人の仲間なぞ、信じるものか」
独り言のようにつぶやき、アウグストは去って行った。
「我が君、あの無礼者ども、やはり消したほうがよろしいのでは」
三人が去り、ジュリアンが本性を現す。
「ダメだよ。でも、ひとつはっきりしたことがある」
「なにがだ?」
「アウ君、やっぱり悪い人じゃないよ。お兄さんのことが大好きだったから、それでやり場のない悲しみをぶつけてるだけなんだよ。多分誤解が解けたら、獣人の人たちとも仲良くなれると思うよ」
「ほんとかにゃ」
「でも、あんなに取り乱した王子見たのは初めてだべ」
「なあクリス、一体アイツがお前をあそこまで敵視しているのはなんでなんだ?ちょっと普通じゃないぞ。もしよければ、話してくれないか?」
ライラの言葉に、クリスティーナは下を向いている。すると、嗚咽が聞こえた。
「・・・ごめんなさいぃ。私がぁ、悪いんですぅ」
そのまま泣き出してしまった。
「す、すまないクリス。言いたくないのなら、無理に話さなくていい」
ライラがあわてて謝罪する。それでも泣き止まないクリスティーナに、ラルカが童子の宝物庫から、大きなアップルパイを取り出した。今朝グリメルと一緒にラルカが作った甘さの強いパイだった。
「ふええっ!?」
「ご飯にしよっか。ご飯食べて、皆で笑おう?」
ラルカが満面の笑みを浮かべてウインクした。
「なんだ、なに出すかとおもったらパイか。食べ物で釣るなんて、おめえじゃねえんだからよ」
ゴンゾの言葉にみんなが笑った。ラルカも笑った。クリスティーナもつられて笑ってしまった。いつの間にかクリスティーナの胸の中にあった悲しみは消えていた。
お読みいただきまして、ありがとうございます。
ご感想、評価、リアクションお待ちしております。
しばらくは毎日投稿しますので、応援よろしくお願いいたします。




