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凶獣たちの狂宴〜闇に光を、君に祈りを〜  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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20/26

地球人と、宇宙生物

「やっとスッキリしたぜ」

 

 綺麗になった大広間を見回し、加藤は呟いた。

 先ほどまでは、惨憺たる有様であった。死体が転がり、床は血まみれである。さすがに、こんな場所に玲奈を長居させたくなかった。親子は先ほどまでいた休憩室に戻り、加藤はひとりで掃除を始めたのだ。

 宇宙生物の空けた穴には、元同級生たちの死体を詰め込んでいった。正直、何の感情も湧いていない。死体も雑に扱った。

 もっとも、死体の始末は裏稼業で慣れている。今の彼にとって、人の死体を扱うのは肉の塊を扱うのと代わりない。

 それは、元同級生の死体でも同じことだ。




 いつからだろう、死体を見ても吐かなくなったのは……。

 初めのうちは吐いた。死体を切り刻み、骨を細かく砕いて粉状にする。あとは、海に撒けば魚の餌になる……そんな作業をやらされた。


(死体が見つからなければ、ただの行方不明だ。けどな、死体が見つかると殺人事件になっちまう。この差はデカいぜ)


 かつて組んだ裏の仕事師は、そう言っていた。


 もっとも、加藤は金のために死体を始末したのではない。ただただ、残酷になりたかった。また、残酷な仕事に慣れたかったのだ。

 もっともっと残酷な人間になれば、かつてのイジメなど何でもないと思えるから──


 そんなことを思い出しつつ、死体となった元同級生たちを睨む。


「こいつら、生きてる間はろくなことしなかったな。けど、死んでからやっと役に立ちやがった」


 思わず呟いた。

 そう、彼らは死んでようやく無害となった。中学生の時は加藤をイジメ続け、ここに来てからも隙あらば自分の足元をすくおうとしてきた。

 結局のところ、死んだ者だけが良い元同級生だ──


 さらに加藤は、先ほど美鈴が勝田たちに言ったセリフを思い出した。


(中学生の時にあなたたちのやっていたことは、イジメなんて言葉で語れるものじゃない。立派な犯罪だよ。あなたたちに、彼を犯罪者だなんて言う資格はない)


 体を縛られ自由を奪われ、挙げ句に刃物を突きつけられている。にもかかわらず、よくそんなことを言ったものだ。大した度胸である。

 かと思えば、加藤に対するイジメの話を聞いた時は涙していた。

 本当に、喜怒哀楽の激しい(ひと)だ……そんなことを思いつつ、加藤は床に座った。周りを見回し、一息つく。

 もうじき奴らからの攻撃が始まるのに、掃除などして何をやっているのだろうか。加藤は、思わずクスリと笑ってしまった。


 一方、宇宙生物は加藤の行動をじっと見ている。人間の動きに、興味を持っているのかもしれない。手伝う素振りもなく、ただ見ているだけだ。

 そんな宇宙生物を、加藤はちらりと見てみた。

 さっきまで立っていたが、今は床に座り込んでいる。加藤と同じく、あぐらをかいた姿勢だ。やはり、自分の真似をしている。

 思わず苦笑した。


「変な奴だな。お前、本当にエイリアンなのか?」


 聞いてはみたが、答えは返ってこない。ただ、加藤のことを見つめるだけだ。

 玲奈によれば、この生物は宇宙から来たのだという。根津湖に落ちた隕石に、卵が付着していたらしい。

 そのニュース自体は、加藤も覚えていた。だが、まさかそんな「おまけ」が付いていたとは思わなかった。

 玲奈は、隕石が落ちた直後から異変に気づいていたという。宇宙生物が卵からかえると、玲奈はテレパシーを送ってみた。

 宇宙生物も、そのテレパシーに反応するようになり、やがて会話するようになった。

 玲奈は教団から母と共に逃げ出した時も、助けにきて……というテレパシーを送っていたという。

 そして今、ようやく駆けつけてくれたのだ。


 まったく、とんでもねえ話だな。


 そんなことを思いつつ、加藤は立ち上がった。と、宇宙生物も立ち上がった。

 ふと、加藤の頭にある考えが浮かぶ。すっと右手をあげてみた。

 見ていた宇宙生物は、同じように左手をあげる。見たまま真似をしているのだ。

 次に加藤は、左足をあげてみた。宇宙生物も、右足をあげる。

 生まれたての動物は、親の真似をして様々な動作を覚えていく。この宇宙生物も、同じ感覚なのだろうか。

 玲奈の話によれば、この宇宙生物は誕生してから一月ほどしか経っていない。最初のうちは、食べることと闘うことしか興味がなかったそうだ。

 しかし、今は違う。玲奈はテレパシーでの会話を通じ、様々なことを教えていったのだという。

 今は、加藤の行動を目で見て学習しているのかも知れない。


 どうなのだろうかと考えつつ、首を傾げる加藤。と、宇宙生物も真似をして首を傾げる。

 ならば、これはどうだ。加藤は、両手のひらを両頬に当てる。ムンクの『叫び』のようなポーズだ。

 宇宙生物は、じっとこちらを見ていた。ややあって、全く同じポーズをとる。


「ほう、面白い。なら、これができるか?」


 そう言うと、加藤はひょいと逆立ちしてみせた。

 宇宙生物は、じっと彼を見つめる。十秒ほどしてから、恐る恐る真似をした。両手を伸ばし、逆立ちの姿勢をとる。だが、バタリと倒れてしまった。

 逆立ちにはコツがある。コンクリートをも破壊する腕力の持ち主でも、コツをわからないとできないのだ。

 加藤は、悟りきったような表情でウンウンと頷いた。


「そうかそうか、逆立ちはできないか。お前もまだまだだな」


 そう言ったところ、宇宙生物はあぐらをかいた姿勢でウンウンと首を振る。真似をしただけなのだろうが、見ようによっては加藤の言っていることに頷いているようにも思える。

 加藤は笑みを浮かべた。


「フッ、わかってくれたか。お前は、まずここからだな」


 言いながら、加藤は動く。普通に立った姿勢から、側転をしてみせる。大広間を、くるんと回って移動した。

 見ていた宇宙生物も動く。加藤の行った側転と、全く同じ動きをしてみせたのだ。


 その時、声が聞こえてきた。


「ちょっと、何をやってんの?」


 加藤が声のした方を見ると、美鈴と玲奈が立っている。美鈴は呆れた顔だが、玲奈は楽しそうに笑っている。

 どのくらい前から見られていたのだろう……などと思いつつも、加藤もにっこり笑った。


「こいつ面白いよ。いろいろ真似するんだ」


 加藤がそう言うと、美鈴は手話で玲奈に伝える。

 玲奈はウンウンと頷き、宇宙生物をじっと見つめた。その目が、不思議な色に光る。

 ややあって、玲奈は母に向かい手を動かした。すると、美鈴はクスリと笑った。


「なんだ? なんて言ってるんだ?」


 尋ねた加藤に、美鈴は微笑みながら答える。


「あのね、この宇宙生物も、あんたの動きが見ていて面白いって言ってるんだって」


「なんだ、俺の動きはそんなにウケるのか。こいつらの星なら、人気コメディアンになれていたかもな」


「何バカなこと言ってんの」


 そう言って、美鈴は笑った。その笑顔を見ていると、加藤の顔も思わずほころぶ。

 再び、美鈴の言葉を思い出していた。


(誰かを幸せにしてあげたら、自分も幸せになる)


 その時、美鈴が顔を覗きこんできた。


「へえ。あんたも、そんな顔することあるんだね。ただでさえ顔怖いんだからさ、笑顔を多くした方がいいよ。そしたら、周りも自分もいい気分でいられるしね」


 心を見透かされたような気がして、加藤は思わず目を逸らした。己の動揺を隠すため、話題を変える。


「ところで、こいつ名前はついてるのか?」


 言われた美鈴は、玲奈に手話で尋ねた。玲奈はかぶりを振った後、手話で返す。


「名前はまだないんだって」


「だったら、こいつに名前つけてやろうぜ」


 宇宙生物を指差しながら言うと、美鈴は困惑した表情になった。


「えっ? 名前?」


「ああ。でないと、呼びづらいだろ。エイリアン……いや、エイドリアンってのはどうだ?」


「エ、エイドリアン!?」


 美鈴は素っ頓狂な声で叫び、直後にクスクス笑い出した。

 エイドリアンと言えば、真っ先に思いつくのはハリウッドの有名なボクシング映画に登場するヒロインの名である。

 それを、この巨大な宇宙生物の名前にしてしまうとは……どういうセンスをしているのだろう。

 しかし、加藤は大真面目な顔だ。


「ああ。エイリアンじゃあ可愛げがなさすぎるだろ。だからエイドリアンだよ」


 そう言うと、加藤はスマホを取り出した。何やら操作し、玲奈に画面を見せる。

 画面には、こう書かれていた。


(こいつの名前はエイドリアンだ。教えてあげてくれ)


 画面を見た玲奈は、ウンウン頷いた。宇宙生物の方を向き、さっそくテレパシーを送る。

 宇宙生物は、じろりと加藤の顔を見た。わかっているような、いないような、微妙な顔つきだ。そもそも、表情があるのかもわからない。長く付き合っていくと、わかるのかもしれない。

 そんな宇宙生物に向かい、加藤はゆっくりと喋り出す。


「お前は、今日からエイドリアンだ。エ、イ、ド、リ、ア、ン」


「え、え、え、え、え、ん」


 エイドリアンは、加藤の言葉を真似て喋り出した。

 この生物は、人間のような声まで出せるのか……などと思いつつも、加藤は訳知り顔でウンウンと頷く。


「まだまだだが、初めてじゃ仕方ないな。今日のところはそれくらいで勘弁してやる。なあに、お前は賢いから、言葉くらいすぐに覚えられるよ」


 そんな両者のやり取りを見て、美鈴と玲奈はニコニコしている。

 先ほどまで、恐ろしい殺し合いの舞台だったはずのレストランだったが、今は暖かく優しい空気に包まれていた。

 

 そんな中、加藤は真面目な顔で口を開く。


「ひとつ、いい手を思いついたよ」


「えっ、何?」


「俺が、ここで派手に暴れて奴らの注意を引く。その隙に、あんたらふたりはエイドリアンと一緒に逃げるんだ。いい作戦だろ?」







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