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「ムタチオン」  作者: 使徒佐さとし
第六章 誘拐編
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第60話 健太郎

 2005年8月8日…八郎は上京していて、咲は福岡の病院で入院していた。咲の腹の中には間もなく生まれようとしている健太郎がいた。咲は生まれる頃に何とか来れないかメールを送った。元々仕事で忙しくて中々連絡を取れないので返信がすぐに来ないのは知っていた。しかし、今日は珍しくすぐに返信が来たのだ。明日には福岡に戻れると返信が来た。

 2005年8月9日…健太郎は生まれた、八郎もその2時間後に来て初めて父親になった瞬間でもあった。

 「この瞬間を大事にしてね、親になる瞬間は一度しか訪れないからね。」

 この12時間ほど前に八郎が殺人をしていたなんて咲は夢にも思わなかっただろう。健太郎が生まれる前の日、東京のとあるアパートで八郎は女を連れ込んでいた。八郎は上京して間もなく、女を見つけて遊びまわっていたのだ。金は仲間が強盗をしてくれるからいくらでも入ってくる。それに不審に思わずに半年ほど八郎と付き合っていたが、ある日強盗をする内容の資料を偶然見つけてしまって、八郎と口論になったのだ。

 「それは新聞の記事にする奴だよ。」

 「嘘だ、調べたらあんたどこの記者でもない。今までニュースでやっていた強盗も全部ここに書いてある。それに、これから強盗する所もね。」

 「俺は何もしていないさ。どこに証拠がある?」

 不倫相手はこの事を警察に言うつもりだったが八郎はそれをさせまいと、必死に相手を押さえ込んだ。相手は叫びだしたので口を押さえたら、突然相手の体温が上昇してきて、そのまま息をしなくなった。首を絞めたわけでもなく、息を塞いだわけでもないのに、突然苦しみ出したのだ。そして自分の手もなぜか熱い。バケツに氷水を入れて冷やしたがすぐにお湯になってしまった。そこで自分がムタチオンであることに気付く。

 「俺にもこんな力があったのか。これならより効率の良い強盗が出来るかもしれん。」

その直後に咲から健太郎が明日にも生まれるかも知れないというメールが来た。八郎は思わずすぐに返信をした。初めて人を殺したので八郎は少し動揺していたのだ。夜中に相手を袋に詰めて、山奥に行ってドラム缶に相手を入れてそこに灯油をたくさん注いで、火をつけた。その後咲がいる福岡に向かったのだ。

 2015年5月16日…計画実行まであと17時間になった。ここで八郎は一人呟いていた。

 「あともう少しだ、もう少しで全てが終わる。」

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