第51話 吉本八郎
この世界には生まれた時から既に人とは違う特殊な能力を持つ人間がいる。その人間の事をムタチオンと呼ぶ。世界に数千はいるとされるムタチオンを、否定するものもいれば、支持する者もいる。それ以前にムタチオンの存在すら信じない者もいる。しかし、今この瞬間にも世界のどこかで30分に1人は何者かによって誘拐、または拉致をされている。3秒に1人誰かが死亡していて、そのうちの10秒の間に1人は殺人である。今こうしている間にもどこかで事件・事故が起きている。常にどこかで誰かが苦しんでいるこの世界に平等な物など無い。一方が眠っている時には一方が、生きるか死ぬかの状況になっている。しかし多くの場合は、世界の誰かがどんな状況になっているかを考える人は少ない。3秒に1人が死亡しているこの世界では、自分自身も3秒後には死亡している可能性もある。そして、30分に1回は誰かが誘拐されたり、襲われたりしている。それは、自分の友人や恋人も例外ではない。誰にでも起こり得る事なのだ。さとしはいつも通りにみゆと帰って、いつもどおりに別れた。さとしは今自分の恋人が誘拐されたと悟っており、この状況を30分に1回誰かが味わっているという事を考えた。
「これも30分に1回の出来事の一部だということか。」
さとしはそう呟いていた。
一方、吉本のアジトがある東京のとある市街地から離れた所にある小さな倉庫に、両手両足を床に縛り付けられている状態のみゆがいた。みゆの制服は汗や泥で汚れていた。吉本はみゆのそばに近づいて、みゆの頬を触った。すると、みゆは突然苦しみだした。息が荒くなり顔色も悪くなってきた。汗もたくさん吹き出していた。
「どうだ、俺の能力。人の体温をコントロール出来るんだぜ。人間って42度を越すと死ぬって知ってるか?」
「ハア、ハア、私をどうするつもりなの。」
吉本は再びみゆの頬を触った。すると40度まで上がっていたみゆの体温は36度までに下がった。
「簡単に言うとお前のような人材が欲しかったんだ。つまり協力してほしい。」
「なんの協力?」
「日本銀行の金を全て貰う計画を遂行する為だ。」
みゆは驚いた。日銀はムタチオン対策に、24時間体制でM部隊の下層部が100人体制で交代で警備されている。
「それにな、明後日の日曜日の早朝に、現金5億円が輸送される。その時は警備が倍の200人になる。さすがにM部隊が200人じゃ割に合わないからな。それに対抗できる力を必要としていた所だ。」
日曜日に5億円が輸送され、元々金庫には3億円程度あるので、輸送車も奪えば合計で8億円の現金を手に入れる事ができる。吉本はそれを狙って強盗を計画していたのだ。
「この計画は1年2年の話じゃない。10年以上もかけて行う計画だ。日銀を襲うだけが目的じゃない。本当の目的はそのあとだが、まあそれは後で教えてやる。どちらにしろ、川田みゆには協力してもらう。拒否するなら死んでもらうしかないがな。」
みゆは必死に解決策を考えるのであった。




