試作第一弾
ホップビールの試作品を入れた壺が十個、できた。
それぞれ少しずつホップの配合量を変えてある。このうちの三つはラガー酵母がいることを祈りながら発酵させるときの温度を八度程度に下げ、残り七つは常温で据え置いて発酵させた。
メルティア様から授かった温度調整能力はここで非常に役立った。まずその液体が今何度かが分かる。そして何度にするか、その温度を維持するかどうかまで選択して設定することができた。温度管理が出来栄えを左右する醸造においては神スキルと言っていい。
「やっぱり駄目っぽいな」
五日経っても、お祈りラガーは麦汁のまま発酵が進んでいなかった。僕は今回の試作でラガービールを作るのを諦めた。
一方、常温で発酵させた方は表面に泡が浮かんでいる。こちらはほどよくアルコールができているようだった。
僕はうまく発酵した七つを二週間熟成させた。
二週間後、僕は五つの壺を持ってビール醸造所に行った。持って来なかった二つは、少し飲んでみたところ試飲してもらう価値さえないと判断したのだ。
「おう坊ちゃま。その壺はなんです?」
醸造所の職人がさっそく質問してきてくれた。
「ビールだよ。僕が作ってみたんだ」
「ほう?」
おっちゃんが一瞬で職人の顔になった。
「まずこの町で一番ビールに詳しいおっちゃんに味見してもらいたくって」
「ほう、うれしいこと言ってくれますねぇ。じゃあさっそく」
おっちゃんは一つ目のビールをひしゃくですくい、小さなカップに入れると、くいっと一口で飲んだ。
「!」
おっちゃんの顔に驚きが走った。
そうだろう。これまでビールと言えばハーブ由来のミントや森のような香りだったのだ。ホップの鋭い苦みと爽やかな香りはさぞ鮮烈に感じるに違いない。
「これは、ビールなのか!? いや、たしかにビールだ。そうか、いつものグルートではないんですね?」
うんうん、さすがだ。
「僕が新しく考えたんだ」
「なんてこったい。うん、これは美味いですよ」
「適切なハーブの量が分からなかったから、材料の分量を変えて五つ作ってみたんだ。どれがいいと思う?」
僕は五つ全てを試飲してもらった後、尋ねた。
「うーん、苦みが強すぎるのはちょっと嫌う奴がいるかもしれないので、これですかね」
おっちゃんが選んだのはちょうど中間くらいの量を使ったビールだった。
「ありがとう、女将さんはいる?」
僕はそう尋ねて、次の人柱を探した。どの濃さが好まれるか、できるだけ複数の人に聞いておきたかったのだ。
そうして十人ほどに尋ねた結果、中間くらいの量で作ったビールを好む人が多かった。苦みが強すぎず弱すぎず、という塩梅の試作品だ。
「エマは?」
「私が仕事中に飲むわけには参りません」
エマの意見は得られなかった。
家に帰り、ビールたちと一緒に自室に戻ると、ほどなくして予想通りメルティア様が姿を現した。
「ビール、できたんじゃろ?」
「できましたよ」
僕は、一番ホップ量の少ないビールを5度まで冷やして、メルティア様に差し出した。僕が見たところ、しっかりキンキンに冷やせばこれが一番“効く”はずだ。
「ふむふむ、どれどれ」
メルティア様は表面の泡を確かめ、香りを楽しんだ後、ぐいっといった。
「んぐ、んぐ、んぐ……くぅ~~~!」
そして、『たまらん!』という顔になった。きっと胃袋によくしみていることだろう。
メルティア様は天井を仰いだ。
「おぬし、よくぞ我が試練を乗り越えたな」
そして肩を叩いてきた。
結局ラガービールでなくてもいいみたいだ。やっぱ酒なら何でもいいんだろうな。
よし、醸造所のおっちゃんに量を作ってもらって、もう少し町の人の感触を確かめてみよう。
一か月後、僕は父に呼び出しを食らった。




