ホップ探し
「ビールに使ってるハーブ? あぁ、グルートか」
僕は家に戻り、父が休憩しているタイミングを見計らって質問をしにいった。
「グルート?」
「ビールのために調合したハーブをそう呼ぶんだよ」
「どういうハーブを使っているのか、見せてもらえないですか?」
父は即答しなかった。
「なんのためだね?」
「こないだ、ネークを作ったでしょう。それが面白くて、ビールの造り方も気になって調べてみてるんです」
僕はそれっぽい言い訳を口にした。
まさか神様に試練として作れと言われたから、なんて言えるわけがない。
「ふむ」
父は腕を組んだ。
「まぁ、おまえなら馬鹿なことはしないか」
僕は父が言っていることの意味が理解できず、首をかしげた。
「いいか、ヴィノ。グルートの配合は我が領地にとって重要な意味を持つ。だから、決してどんなハーブを使っているか、誰かに伝えてはいけないよ」
「分かりました」
僕は頷いた。
僕は誰かに知らせるためではなく、その中にホップ、またはそれに近いハーブが含まれているかどうかだけ知りたいのだ。もしあれば、それを単体で使えばいいのだから。
「どのハーブを使っているのか、そしてその分量も、決して口外しないことを誓います」
僕が誓いの言葉を述べると、父は僕を保管室に連れて行ってくれた。
そこは小さな部屋だった。様々な種類の乾燥したハーブの香りが混ざり合っていて、ここにいるだけで病気も治ってしまいそうな気がするほどだった。部屋の奥には調合のための机があり、両側の棚にはいくつもの袋が置かれている。
「袋の中身を見てみても?」
父の許可を得て袋の一つを見てみると、乾燥されたハーブが入っていた。何のハーブかは分からない。今世の僕はハーブには詳しくないし、前世の僕も、ホップなら多少知っていたけれども、それ以外のハーブについてたいした知識は持っていなかった。
僕がやるべき事は、これがホップと同じような味わいを出せるかどうか確認することだけだ。
そこで今開けた袋のハーブを観察してみるに、いかにも草という感じの葉だ。だからこれはホップではない。
ホップは、花を使う物なのだ。同じ植物がなくても、似たようなものがあるとすれば「花」であるはずだ。
僕は棚の袋を漁り、花っぽい形状のものを探し求めた。
(ない)
残念ながらここにはホップのように使えそうな物はなかった。
「調合した後の物はありますか?」
僕は言い訳のほうを疑われないよう、できあがっているグルートを少しもらって、保管室を出た。
少なくともこの領地では、ビールにホップは使われていない。
それが分かったので、次に僕は町の薬屋に向かった。
「こんにちは」
ドアを開けて薬屋に入れば、店番をしていた男が立ち上がった。
「これはヴィノ坊ちゃま」
はいはい坊ちゃまですよ。
「どうされましたか?」
「探している薬草があって、聞いてもいいですか?」
ハーブというのは、薬として用いられている。ビール関連で攻めてダメなら薬屋だ。ホップが果たしてどんな薬効を持っていたのか知らないが、知っている情報から聞いてみればいいのだ。
「何の薬でしょうか?」
「花の部分を薬に使うんだけど、苦みが強いやつなんだ」
「……妙な探し方してますね」
「詳しいことがよく分からなくって。これかなってもの、ないかな?」
「うーん、ちょっと待ってくださいね」
店番は頭をかきながら薬棚へ向かった。
待っていると、店番が候補をいくつか出してくれた。
「この中にあるか、分かります?」
出されたときから、僕はその中の一つに目を付けていた。
小さな球のような花。
姿からしてホップだ。
僕はそれを手に取って、少し揉みほぐしてから、香りを嗅いでみた。
枯れた草の香りの中に松や花、すこしクローブや柑橘のような香りも混じっている。
(これだ)
僕は目当ての物を見つけた。
「これ、あるだけもらえますか?」




