夜会
貴族にとってパーティーとは、楽しむ場ではない。
開催目的は様々だ。領内の有力者と情報や意見を交わすこと、有力者にゲストを紹介すること、領主の政治的な力を有力者に示すこと、だいたいこのあたりが多いだろうか。
会場に来るまでにフィネアに聞いた情報では、このパーティーの予定はひと月前、つまり僕がここに来ることが分かる前に立てられていた。そして僕の他にゲストはいない。
つまり、現地有力者同士の懇談の場を予定していたが、ちょうどゲストが来たので放り込んだというわけだ。
会場はバスケットコートほどの広さがあり、三十人ほどの男女が立食で懇談していた。
「ジーエンフォルン伯爵、本日はお招きいただきありがとうございます」
僕はまず伯爵のところに行き、挨拶を述べた。
「うん、ぜひ楽しんでいってくれ。フィネア、彼を頼むぞ」
伯爵は相変わらず淡々としている。
「はいお父様」
そのあとは、有力者たちが入れ替わり立ち替わり僕の前にやってくることになった。
「ベルシュタイン商会のロドモンドと申しますフィネア様、いつもお世話になっております」
「ロドモンド様、ごきげんよう。ヴィノ様、ロドモンド様は、麦などの穀物を扱ってらっしゃるのよ」
「おぉ、そうなのですか。実は私がここへ来訪させていただきましたのは、ビールの醸造の研究をするためなのです。ビールに麦は不可欠なもの、ぜひお力添えください」
「もちろんですとも。いつでも我が商会へお越しくださいませ」
フィネアの援護射撃を受けながら、僕は一人ひとり対応していった。誰一人僕を侮る様子はない。これは彼らの人格ができているというのもあるだろうが、横にフィネアがいるのも大きいと思う。彼女の目の前で伯爵のゲストを軽視するようなことなどできようはずもない。
それでなくとも、有力者たちをよく知っているフィネアが付いてくれているのは、僕にとっても助かった。
有力者がどのような仕事をしているか、彼女が逐一教えてくれるのである。僕はそれに乗っかって言葉を述べていけばよかった。
次に来たのは中年男性と赤いドレスを着た若い娘の組み合わせだった。男性の方はアッシュグレーの髪色だが、娘の方はは明るい褐色。年の離れた夫婦なのか、親子なのか、少し判断に迷うところだ。
「こんばんはフィネア。退屈してない?」
若い娘はまずフィネアに話しかけた。
マナー全無視である。
「こらリゼット、ゲストを無視してフィネア様に声をかけるとは何事だ」
「はぁい」
男に怒られて、娘、リゼットがようやく僕を見た。
この距離感は親子だろうな。
「あなた、面白い目の色をしているのね」
いきなりである。
「そう、かな?」
普通の青い瞳のはずだ。突然何を言っているのだろうか、この娘は。
「リゼット」
父親が少し苛立った声で注意した。
リゼットは小さく肩をすくめると、ようやくスカートをつまんで礼をした。
「ボーグ商会のリゼットです、よろしくお願いいたしますわ」
「ヴィノ・エンメルドです、よろしく」
「ボーグ商会の代表をしております、ベルキアです。娘の無礼につきましては何卒ご容赦いただきたく」
「構わないですよ」
見たところ、リゼットは僕と同じくらいの年だ。同年代というのはちょっと特別なのだ。
「ヴィノ様と呼んでもいいですか?」
「いいですよ、リゼットさん」
「リゼットでいいわ、です。ヴィノ様はなにをしにこちらに?」
「ビール醸造の研究ですよ」
「ふぅん。実際に作るの?」
「もちろん。どこかちょうどいい場所を借りて実験をする予定です」
「ねえ、お父様」
リゼットが父ベルキアさんに顔を向けた。
「カールス通りのあの家、貸してあげられないかしら?」
「いきなり何を言うんだ」
ベルキアさんは眉間に皺を寄せている。娘にかなり苦労しているようだ。
「空いてるんだし、いいじゃない」
「マナーの問題だ」
「空いている物件があるのですか。もしよろしければ、一度見せていただけませんか?」
僕は助け舟をだした。マナーの問題だというなら、使えそうな物件はあるわけだ。渡りに船である。
ベルキアさんはほっとした様子で頭を下げた。
「恐れ入ります。では一度」
どんな場所かによるが、これはうまく工房を構えられるかもしれない。




