男爵家の宴会
こうしてシーリィの問題を解決したところ、一家は思わぬ提案をしてきた。
兄のブルストはそのまま今の農園に残り、ヨルストとシーリィの二人がエクタフ男爵領に移住したいと申し出てくれたのだ。
僕はその成果について父にプレゼンを行った。
「ということで、ホップの育て方を知る農家の方が移住してくれることになりました。
彼に領内でのホップ栽培法の確立と普及を進めて貰いつつ、ホップについては男爵家の専売制を取ることを考えています」
「前にアイデアを聞いたときは移住ではなくレクチャーで短期間来て貰うということだったが……」
父はその成果に驚いていた。
「僕の熱意が伝わったようです。これでレクチャー費用を男爵家から出さずに済みましたね。それと移住に法的な支障が無いことも確認しました」
「そうか。よくやってくれた。正直、予想以上だった」
父が笑顔を作った。
「ホップの専売制自体は私も考えたし、その程度だろうかと思っていたが、まさかここまで先を見越して不利益を回避した計画にしてくるとは」
「はい。あとは、ホップをどんどん作ってビールにして、売っていくだけです」
「近隣領地への輸送と販売か。やれやれ、仕事が増えそうだな」
そう言いながらも父は嬉しそうだった。ホップビールが売れれば売れるほど男爵領は儲かるのだ。
「ホップを育て始めてから収穫できるまで、どれくらいかかるのかな?」
「二年目からそれなりの収穫が得られるようです」
「そうか。ということはそれまではホップビールはあまり飲めないわけか……」
僕は苦笑した。既にホップビールにはまっている人が目の前にいる。
「それまではブルストから買い付ければ、僕ら家族で飲む分くらいは確保できると思いますよ」
「おぉ、そうか。ぜひそれは頼む!」
「わかりました」
「それを使って販売の下準備もしていこう。ふふ、楽しくなってきたな」
「はい!」
僕も笑顔で頷いた。これで大手を振って酒造りができるのだ。これほど嬉しいことはない。
その夜は家族で祝杯を挙げた。もちろん例のホップビールで、である。
「新しいビールの可能性と、優秀な次男の前途に!」
乾杯の台詞が少し恥ずかしかった。
この日は父も兄もとにかく飲んだ。普段はほろ酔いで切り上げる母ですら大いに騒いだ。
料理には僕も口を出した。
ホップビールは万能といえるほどどんな料理にも合うが、脂分が強いものと合わせると苦みと爽快感がより引き立つ。黄金の組み合わせだ。
ソーセージ、バラ肉の焼肉、それに野菜のピクルス、そうしたものを特別に用意して貰った。
「この肉のうまみと油を洗い流す爽快感はどうだ。交互にいくらでも食べて飲める気がするぞ!」
「この組み合わせは、危険だ……」
おかげで料理は家族に好評だった。
「美味いのう、ヴィノ!」
いつの間にかメルティア様まで場に混ざっていた。
「え、どちら様――」
「まぁよいではないか」
その存在に疑問を抱きかけた兄をメルティア様はその一言で押しきった。
「そうだな、それもそうだな」
兄がなぜか納得している。
「酒あるところ楽しみあり、そしてわしありじゃ!」
両親も、素面の使用人たちさえ疑問を感じていないようだった。さすが酒の神様というべきだろうか。
「ヴィノ、次造る酒も美味いものを頼むぞぅ!」
女神様まで交えて、男爵家の夜は更けていった。




