憧憬から強敵へ
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)ノックアウトステージ ベスト16 アヤックス-アーセナル アウェー戦 その3
スタジアム全体の空気は「勝負あり」と弛緩し始めたが、アヤックスにも諦めの悪い男達がいた。
運も味方したか、アーセナル側にライン際処理のミス。アヤックスのスローイン(左ラインから)。
スローインを受け、すぐさま中央・左寄りのダンへパス。
ダンは左足ワンタッチで返す。この近距離ながら速いパスワークでリズムが変わった。
ダンとドリアンが交差する軌跡で上がって行き、攻めの流れを作る。(ダンが中央、ドリアンがダンが元居たルートへ入る)
だが左からダン、ドリアンに出さず、いったん止まって右へ大きくサイドチェンジ。
アーセナルを揺さ振っている。
右サイドから仕掛けるようにフェイクを入れ、中央へ。ダンにパスが通った。
ワイドに展開してもアーセナル守備陣はまだ完全には崩れておらず、ダンのシュートコースを消そうと詰めてくるも、
それよりもダンの右足が速かった。
後半24分:
スピードのある低いシュートを左隅に決める。1-3。
素晴らしい流れからの得点。ここから奇跡の逆襲と行きたいが、アーセナルは主力を休ませる兼守備固めに交代枠を使い、攻め切れなくなる。
しかし、競り合いは増えて来た。ダンはあまり前に出ず、セカンドボールを狙う。
競り合う二人に近づき、零れ球を拾えた。
ダンへのケアが遅れている。
懸河ドライブ。
完璧な軌道を描いたように見えたシュートは、しかし、無情にもごく僅かに落ち切れず。
クロスバーを激しく叩き、白い水しぶきのような音を立ててピッチへと跳ね返った。
その後7分の攻防、そのままタイムアップ 1-3
試合後、ピッチでユーデゴールとユニフォームを交換する。
「あのドライブシュート、凄まじい変化だったよ。まるで……」
ユーデゴールはそこで悪戯っぽく微笑み、口を開いた。
「『へのつっぱりはいらんですよ』、と言わんばかりの不敵な一撃だった。漫画だったかな? 日本の血を引く君なら知っているだろう」
「…『キン肉マン』ですね。マルティンさん、まさかそんな言葉まで知っているとは」
ダンは思わず苦笑した。日本のカルチャーにも興味を持っていた先輩が放った、まさかのリスペクト混じりの「ゆで先生ネタ」だった。
ユーデゴールは笑みを収めると、前半に見せた自身の「横へと急激に曲がりながら落ちる変化キック」を思い起こさせるような軌道を指で描き、ダンの目を見つめた。
「次はもっと楽しませてくれ」
ユーデゴールの背中を見送りながら、ダンの胸の奥で、何かが激しく燃え上がっていた。
これまでは、「マルティンさんと同じチームで、隣でプレーしたい」と願っていた。しかし、このロンドンの地で、プレミアリーグの圧倒的な熱量を肌で感じた今、その想いは全く別の飢餓感へと塗り替えられていた。
(違う。俺は、あなたと同じチームで並び立ちたいんじゃない……)
碧き瞳が、エミレーツ・スタジアムの夜空を睨みつける。
(このプレミアリーグのビッグクラブのユニフォームを着て、敵として、あなたの前に立って、今度こそ叩き潰したいんだ!)
少年としての憧憬は完全に消え去った。一人のプロフェッショナルとして、世界最高のリーグで戦うための大いなる野心が、20歳のダンの心に深く、鋭く突き刺さっていた。
タイトルに関して、ずっと憧憬だと思っていて、変換できず。
正しくは憧憬。まだまだ知らない事ばかり。
どどど、どうけいちゃうわ!だったんだね。




