第九話 届かなかった手紙
僕は、あの結婚式の日から、ずっと逃げ続けている。
ジャマイカを離れ、西インド諸島を転々とし、ある時はマデイラで、ある時はスペインで、僕は自分の居場所を探すふりをしながら、実際にはただ、妹への罪悪感から目を逸らし続けているだけだった。
グレース・プールから定期的に届く手紙——ロチェスターが密かに雇い、僕にだけ妹の様子を伝えさせている、あの手紙を、僕は毎回、震える手で開いた。
『奥様は、お変わりありません。時折、お心が乱れることもございますが、概ね落ち着いていらっしゃいます』
そんな文面を読むたびに、僕は自分に問う。「落ち着いている」とは、いったい何を意味するのだろう。屋根裏に閉じ込められ、鉄格子の中で、彼女は本当に「落ち着いている」のだろうか。それとも、その言葉は、僕を安心させるための、優しい嘘なのだろうか。
僕はロチェスターに、何度か手紙を書こうとした。「バーサに会いに行きたい」と。だがそのたびに、手が止まった。
会いに行って、何を言えるというのだろう。「済まなかった」と謝れば、それで彼女が救われるのか。「元気にしていたか」と尋ねれば、それで僕の罪が軽くなるのか。
いや、本当のところ、僕が恐れているのは別のことだった。妹の——変わり果てたかもしれない妹の姿を、この目で見ることが、僕は怖かったのだ。
ある年の冬、ロチェスターから珍しく、直接の手紙が届いた。
『ソーンフィールドに、家庭教師を雇った。アデルのためだ』
その一文だけが、妙に印象に残った。なぜロチェスターが、わざわざそんなことを僕に知らせてくるのか、僕にはわからなかった。だが手紙の端々に、これまでにない何かが滲んでいる気がした。
彼の文面は、以前より少しだけ、生きているように見えた。何年も、義務としてしか屋敷に戻らなかった男の言葉に、わずかながら熱のようなものが戻っていた。
僕はその変化を、素直に喜べなかった。もしロチェスターの心に、新しい光が差し込んでいるのだとしたら——それは同時に、屋根裏の妹の存在が、彼にとってますます「邪魔なもの」になっていくということでもあるからだ。
僕は酒を飲みながら、窓の外を見つめた。異国の、見知らぬ港町の景色。ジャマイカの熱い風とも、イングランドの冷たい霧とも違う、どこか中途半端な空気。
僕自身が、ずっとそんな場所に留まり続けているのだと、そのとき初めて自覚した。妹を裏切った罪から逃げ、友への裏切られた思いからも逃げ、どこにも根を張れないまま、ただ漂流している。
「バーサ、済まない」
僕は誰もいない部屋で、そう呟いた。その言葉は、もちろん彼女には届かない。だが言わずにはいられなかった。
その夜、僕は久しぶりに、ソーンフィールドへ向かう船の便を調べた。だが結局、切符を買うことはなかった。
まだ早い、と自分に言い訳をした。だが本当は——妹に許してもらえる資格が、自分にはまだないと、感じていたのかもしれない。
いつか、必ず行く。だがその「いつか」を、僕はまだ、決めることができずにいた。
グレースからの次の手紙が届くまで、僕はまた、この宙ぶらりんの日々を続けることになる。




