第二話 鉄格子のない檻
結婚してひと月も経たないうちに、私は気づいた。夫は、私を見ていなかった。
正確に言えば、彼は「バーサ・メイスン」という女ではなく、「メイスン家の財産」を見ていたのだ。夜ごと交わされる会話は、砂糖農園の収益と、私の持参金の使い道についてばかりだった。私という人間の声は、誰にも聞かれていなかった。
それでも私は、夫を理解しようとした。彼の中に燃えている何かに、かつて惹かれたはずだったから。だが近づけば近づくほど、彼は扉を閉ざした。まるで私が近づくこと自体が、彼にとって脅威であるかのように。
「お前は僕の妻に相応しくない」
初めてその言葉を聞いたのは、結婚から半年ほど経った夜だった。理由を尋ねる私に、彼はそれ以上何も語らなかった。ただ、冷たい目でこちらを見るだけだった。
私は苛立った。当然だろう。誰だって、理由もわからず拒絶されれば苛立つ。声を荒げたこともある。物を投げたこともある。だがそれの、どこが「狂気」だと言うのだろう。
使用人たちの態度が変わり始めたのは、その頃からだった。私が少しでも感情を露わにすると、彼らは目を伏せ、そそくさと部屋を出ていった。まるで、私に触れることさえ恐れるように。
ある日、鏡の前で髪を整えていると、廊下から夫と医師の話し声が聞こえてきた。
「奥様の母君も、同じ御病気だったとか」
「ああ。血筋なのだろう」
私は鏡の中の自分を見つめた。母の顔が、そこに重なって見えた気がした。あの鉄格子の部屋にいた母。ピアノを弾き、笑い、私に子守唄を歌ってくれた母。彼女もまた、こうして誰かに「病気」というレッテルを貼られていったのだろうか。
私は初めて、恐ろしいと思った。夫が私を「病気」だと決めつけることそのものよりも——一度そう名付けられてしまえば、私が何を言っても、何をしても、すべてが「症状」として処理されてしまうことに。
怒れば「発作」。泣けば「錯乱」。沈黙すれば「憂鬱の兆候」。
私に残された言葉は、もうどこにも届かなかった。
兄リチャードが屋敷を訪れたのは、そんな頃だった。私は兄に縋るように、これまでのことを話した。夫の冷たさ、使用人たちの怯えた目、そして「病気」という言葉。
兄は黙って聞いていた。だが最後に、こう言った。
「バーサ、少し休んだ方がいい。気持ちを落ち着けて」
あの瞬間、私は理解した。兄でさえ、もう私の言葉をそのまま受け取ってはくれないのだと。兄の目にも、私はすでに「不安定な妹」として映っていた。
誰も、私の話を聞いてくれない。
鉄格子は、まだどこにもなかった。だが私はすでに、檻の中にいたのだと思う。言葉を発しても誰にも届かない、そういう種類の檻に。
その夜、私は初めて、声を上げて笑ってみた。理由もなく、ただ笑ってみた。すると夫は、まるで自分の予想が当たったかのような顔で、私を見た。
ああ、そうか。私はそのとき悟った。
この人は、私が壊れることを、もう望んでいるのだ。




