第十一話 対等な魂
あの火事の夜以来、ロチェスター様との距離は、確かに変わった。
彼は以前にも増して、私を書斎に呼ぶようになった。時には仕事の話、時には旅先での思い出話、時には哲学的な問答——彼は私の意見を、まるで対等な人間のものであるかのように、真剣に聞いてくれた。
それは、私がこれまでの人生で、ほとんど経験したことのない扱いだった。
「君は、自分を美しくないと思っているのか」
ある夜、彼は唐突にそう尋ねてきた。私は驚きながらも、正直に答えた。
「容姿で評価されたことは、あまりありませんので」
「では、何で評価されたいと思っている?」
その問いに、私は少し考えてから答えた。
「心と、頭で、でしょうか」
彼はそれを聞いて、珍しく声を上げて笑った。
「なるほど。それなら君は、この屋敷の誰よりも、豊かな人間だ」
その言葉に、私の胸は不思議な熱を持った。身分も、財産も、容姿も——世間が女性の価値を測るために使うあらゆる物差しにおいて、私はロチェスター様に釣り合う人間ではなかった。だが彼は、そのどれとも違う基準で、私を見てくれているようだった。
同時に、私は不安も抱えていた。彼の言葉の端々に、時折、何か影のようなものが差すことがあったからだ。
「エドワード様は、時々、とても苦しそうな顔をなさいますね」
ある日、私は思い切ってそう尋ねてみた。彼は一瞬、驚いた顔をした後、窓の外に目をやった。
「誰にでも、背負っているものがある。俺にも、そういうものがある」
「話してくださらないのですか」
「いつか、話す時が来るかもしれない。だが今は……まだだ」
その言葉に、私は深追いしなかった。だが胸の中で、あの屋根裏から聞こえる笑い声のことを、私は思い出さずにはいられなかった。あの音と、彼の抱える「背負っているもの」は、無関係ではないのかもしれない、と。
パーティーの季節がやってきた。屋敷には近隣の貴族たちが招かれ、その中に、ブランチ・イングラム嬢という、美しく身分の高い女性がいた。誰もが、彼女とロチェスター様の結婚を、時間の問題だと噂していた。
私は、その噂を聞くたびに、胸の奥が締め付けられる思いがした。だが同時に、自分にそんな資格はないのだとも思っていた。私はただの家庭教師。ロチェスター様のような立場の男性が、私のような女性を選ぶことなど、あり得ないのだから。
ある夜、庭の栗の木の下で、ロチェスター様は私に、思いがけない言葉を投げかけた。
「もし俺が、ブランチ嬢と結婚したら、君はどうする」
「別の職を探します」
「それだけか」
「それ以上、何を申し上げられるでしょう」
私の声は、自分でも驚くほど震えていた。ロチェスター様は、しばらく私を見つめた後、静かに言った。
「君は、俺を自動人形か何かだと思っているのか。感情のない、金と身分だけで動く人形だと」
「そうは……」
「俺は、君と話しているときだけ、自分が本当に生きている気がするんだ、ジェーン」
その言葉に、私は息を呑んだ。
「身分も、財産も関係ない。君の魂は、俺の魂と、対等に語り合える。そんな相手に、俺はこれまで出会ったことがなかった」
夜風が、栗の木の葉を揺らした。私は、自分の胸の中に、抑えきれない何かが溢れてくるのを感じていた。
だがその瞬間、遠く三階の方角から、あの乾いた笑い声が、風に乗って聞こえてきた気がした。
私はその音に、一瞬だけ、体を強張らせた。だがロチェスター様は、それに気づかなかったのか、あるいは気づかないふりをしたのか、ただ静かに、私の手を取った。




