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ep9. ガチ勢の執念

「プレイヤーネーム、ハカセ…レベル103!?」

広場がざわめく。

職員たちは信じられないものを見るような顔をしていた。

そんな中、一人の男が人混みをかき分けて近づいてくる。

VESTAの紋章を身につけた青年だ。

整った顔立ちに、人の良さそうな笑顔。

そしてハカセは、その顔に見覚えがあった。


「あれ、ヤマトくんじゃないか」


青年の目が丸くなる。

そしてすぐに笑顔になった。


「お久しぶりです、ハカセさん」


周囲のVESTAメンバーが驚く。


「え?」

「お知り合いなんですか?」


ヤマトは軽く手を上げた。


「ここは僕が受け持ちますよ」

「は、はい!」


職員たちは素直に下がっていった。

どうやらかなり立場が上らしい。

ヤマトは改めてハカセの前に立つ。


「まさか本当にハカセさんだったとは」

「僕もびっくりしたよ」


ハカセは苦笑した。


「紹介するよ」


レイの方を見る。

「ヤマトくん。ゲーム時代は小型生物との共闘スタイルで有名だったプレイヤーだ」

「プレイヤーネームはヤマトト」

「レベル95」

レイが目を見開く。

「95!?」

十分化け物である。

ヤマトは照れたように笑った。


「今は全然テイムが間に合ってないですけどねぇ」


その時。

レイが肩の上を指差した。


「あれ?」


そこには小さな生き物が乗っていた。

ムササビに似ている。

大きな耳。

ふわふわした尻尾。

黒い瞳。

ハカセが二度見した。


「そ、それって!!!」


ヤマトが嬉しそうに頷く。


「そうですよー」


肩の生物を優しく撫でる。


「おそらくオーロラ新大陸からの新種です」

「新種……!」

ハカセの研究者魂が刺激される。

見たことがない。

図鑑にも存在しない。

完全な未知の生物だ。


「また紹介しますねぇ」

「絶対だからね」

「もちろんです」


ヤマトは笑った。


「こっちは、転移先で出会ったレイちゃん」

「はじめまして」

レイが頭を下げる。


「うん、よろしくねぇ」


ヤマトも柔らかく笑った。

どこか人を安心させる雰囲気がある。

その後。

三人は広場の端にある休憩スペースへ移動した。


「にしても、ヤマトくんは行動が早いね」


ハカセが言う。


「僕なんてラプトルに食われかけてたのに」

「ははは」


ヤマトが笑う。


「僕は運が良かったんですよ」

「転移先がアーシアンズの真横だったんです」

「なるほど」

「それでポータルを見つけて」


ヤマトは遠くの広場を見る。

そこでは今も転移者たちが慌ただしく動いている。


「色々混乱を鎮めるために、VESTAを作ったってことか」

「そうですね」

ヤマトは頷いた。

「やり込んでたレベルと知識のおかげで、みんな話を聞いてくれたんですよ」

「ヤマトくんは本当に優秀だなぁ」

ハカセが素直に感心する。

ヤマトは苦笑した。

「そんなことないですよ」

「いやいや」

「僕は知識しかないからね」

「実際に人をまとめられるのはすごいことだよ」

その言葉にヤマトは少しだけ照れくさそうに頭をかいた。

二人は目を合わせる。

するとヤマトがちらりとレイを見る。


「少しだけ、男同士の話をしてもいいですか?」

「あ、はい」


レイは察したように立ち上がった。


「その辺見てきますね」


ジョシュを撫でながら広場の方へ歩いていく。

レイの姿が少し離れたところで、

ヤマトが改めて口を開いた。

「これはまぁ、嫌だったら答えなくてもいいんですけど」

「うん」

「レベル103っていうのは……?」


やはりそこだった。

ハカセは苦笑する。

「これね」

そして少し考えてから話し始めた。

「オーロラ新大陸アップデートの二日前、小さなアップデートがあったの覚えてる?」

ヤマトはすぐに頷く。

「はい」

「でもあれはパッチでしたよね」

「バグ修正の」

「うん」

ハカセも当時はそう思っていた。

「そうだと思ってたんだけどね」

少し遠くを見る。

「あの頃の東の海岸洞窟、覚えてる?」

「あー」

ヤマトも思い出したようだ。


「深層までの分かれ道があった場所ですよね」

「三叉路になってて、左右に別々のボスがいた」

「そうそう」


ハカセは頷く。


「でも真ん中の道がずっと不自然だったんだ」

「不自然?」

「そこそこ長い一本道を歩かされて」

「低レア宝箱が一個だけ」

「あぁ……」

ヤマトも納得した顔になる。

確かに妙だった。


「それで、ふと思って」

「パッチの後に行ってみたんだ」

ヤマトの目が開く。

「まさか」

「そう」


ハカセは笑った。


「いたんだよ」

「新種のボスが」

ヤマトが固まる。

「えぇ!?」

「飛行禁止」

「中型以上の生物持ち込み禁止」

「しかも」


ハカセは肩を竦めた。


「出られない」

「は?」

「倒すまで出口封鎖」

「鬼か」


思わずヤマトが素で突っ込んだ。


「でしょ?」

「デスペナルティが嫌すぎてさ」


Originのデスペナルティ。

死亡した場合、

二十四時間の間レベル最大値が10%減少する。

高レベルプレイヤーほど重い。


「丸一日かけて戦ったよ」

「ソロで?」

「ソロで」


ヤマトは頭を抱えた。


「いやいやいや」

「正気じゃないですよ」

「なんとか勝ったらさ」

ハカセは続ける。

「レベル上限が5上がったんだ」

沈黙。

ヤマトは数秒固まる。

そして。

「あー……」

納得した。

「つまり」

「ハカセさんのレベル最大値は105」

「そういうこと」

ハカセは頷く。

「でも」

少しだけ表情を引き締めた。

「あの場所と報酬は今のところ秘密にしておきたい」

「ですよね」

ヤマトも真顔になる。

「もしレベル上限解放って情報だけ見て」

「初心者が挑戦したら」

「間違いなく負けますね」

「うん」

少なくとも今のアーシアンズには早すぎる。

少しの沈黙。


もし、あれが何度クリアしても同じ報酬が貰えるのなら、混乱という話では済まない。


今度はハカセが尋ねた。

「僕からも質問いいかな」

「もちろんです」

ヤマトが頷く。

ハカセは真っ直ぐ目を見る。

「この世界で死んだ人を見た?」

「リスポーンするのか?」

その瞬間。

ヤマトの表情が曇った。


「それが……」


言葉を選ぶように口を閉じる。

何か知っている。

そう思った瞬間だった。


「ハカセさん!」


聞き覚えのある声。

二人が振り向く。

レイが走ってきていた。

息を切らしながら。

顔色が悪い。


「レイちゃん?」

「どうした?」


ヤマトも立ち上がる。

レイは肩で息をしながら言った。


「ハカセさん、ヤマトさん……!」

「すみません……!」

「弟に似てる……いや……」

「コハクが……いたんです」

ハカセとヤマトの表情が変わる。

「本当か!?」

「はい……!」

レイは必死に頷く。


「でも……」

そこで声が震えた。

「喋りかけようとしたら……」

「何かに……」

「黒い生物に連れ去られてしまって……!」

その言葉を聞いた瞬間。

ヤマトの顔から笑みが消えた。

初めて見る表情だった。


「……黒い生物?」


レイが頷く。

そして。

ヤマトは小さく舌打ちした。

「まずいですねぇ」

その一言に。

ハカセは嫌な予感を覚えた。

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