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ep7. たどり着いた先に

眠るニュクテリス――いや、手羽先の背中を軽く叩きながら、ハカセは頷いた。


「よし。じゃあ僕がニュクテリスの固有スキルを使ってみるから、レイちゃんは羅針盤を見ててね」


「はい」


レイは羅針盤を両手で持つ。

ハカセはやきいもの背に跨った。

ステータス画面を開く。

そして。

固有能力を選択する。


仮死状態ステルスライフ!」


瞬間。

ぐらっ、と世界が傾いた。


「うおっ……!?」


視界が揺れる。

息苦しい。

手足が冷たい。

心臓の鼓動が遠ざかっていくような感覚。

その時、ハカセは思い出した。

能力説明。

――生命力を極限まで低下させる。

「あ」

嫌な予感がした。


「もしかして……」


フレーバーテキストが現実に――


「これ、やばいんじゃ――」


そこで意識が途切れた。


――――――


目を開く。

ぼやけた視界。

天井の岩肌。

そして。


「よかった!!」


レイが駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか!?」

「いてて……」

身体を起こす。

全身が妙にだるい。

徹夜を三日続けたような感覚だ。


「これは危険な能力だな……」

ゲーム時代なら便利なステルス能力だった。

だが今は違う。

実際に生命力を削るらしい。

気軽に使える能力ではなさそうだ。


「でも!!!」


レイが興奮した様子で言う。


ハカセは顔を上げた。

羅針盤が床に置かれている。

その周囲には石で目印が作られていた。

方角を記録したのだろう。


「まさか」


「はい!」


レイが満面の笑みで頷く。

「動いたんです!」

ハカセは飛び起きた。

羅針盤を見る。

確かに。


僕とは違う方向に印が打ってある。


作戦は成功だった。


「やっぱり……!」

仮死状態になった瞬間。

羅針盤からハカセが消えた。

つまり。

羅針盤は生命力を探知している。

ゲーム時代には意味を持たなかった説明文が、この世界では本当に機能している。


その証明だった。


――――――


「プレイヤーはレッドウッドの森の方向か……」


ハカセは脳内で地図を開く。

レイが隣から質問する。


「何か問題なんですか?」


「いや」


ハカセは首を振る。


「別に行くのはそんなに難しくない」


「なら大丈夫じゃ……」


「強いて言うなら山登りがな」


「山登り」


レイの顔が少し曇る。


「まあでも」


ハカセは脳内の地図を閉じた。


「他のプレイヤーに会うためだ」

「行くべしだな、これは」

「ですね」


ジョシュが鳴く。

手羽先も羽をぱたぱたさせる。

こうして二人は歩き始めた。


――――――


歩く。

歩く。

歩く。


手羽先ことニュクテリスに乗ったレイは飛んでいるが。


山道は思った以上に長い。


会話でもしなければやっていられない。


ふと。


ハカセは気付いた。


そういえば。

レイのことをほとんど知らない。


「レイちゃんってさ」

「はい?」

「何でこのゲーム始めたの?」


レイは少し考えた。


「あー」


そして懐かしそうに笑う。

「弟と一緒に何かゲーム始めようってなったんです」

「恐竜が好きだったんですよ」

「弟が」


なるほど。

だからOriginだったのか。


「プレイヤーネームは覚えてるの?」

「はい」

即答だった。

「コハクです」

本名は思い出せない。

だけどプレイヤーネームは覚えている。

不思議な話だ。


「弟もこの世界に来てたら」


レイは前を向いたまま言った。

「無事だといいんですがね」

ハカセは横顔を見る。

だが。

思ったほど沈んだ様子ではない。


「意外と心配してない?」


レイは少し笑った。


「まあ私よりゲーム上手いですし」

「へえ」

「人と関わるのも上手でしたから」

そして続ける。

「私が生きてるなら、弟も生きてるかなって」

「確率的には」


ハカセは苦笑した。


強がりなのか。

本当にそう信じているのか。

まだ分からない。

でも。

きっと探しているのだろう。

自分と同じように。


――――――


歩く。

歩く。

歩く。

山道は続く。

突然。

羽の音が止まった。

ハカセは振り返る。

レイだ。

止まっている。

「どうしたの?」

レイは前を見つめたまま動かない。

「あれ……」

「ん?」


「なんですか、あれ……」 


ハカセも視線を向ける。

そして。

言葉を失った。


「なんだ……あれ……?」


山を越えた先。

巨大な盆地の中央。

そこには。 


信じられない規模の建造物があった。

円形。

石造り。

何十メートルもの高さを持つ壁。

まるで古代文明の遺跡。

あるいは。

巨大な競技場。

コロシアム。

そんな言葉が真っ先に浮かぶ。

ハカセはマップを思い出す。

だが。

何度見ても無かった、こんな建物。

ゲームには存在しない。


「嘘だろ……」


オーロラ実装前はもちろん。

アップデート情報にも無かった。

ハカセが四年間プレイしてきた知識の中に。

こんな場所はない。

風が吹く。

そして。

巨大コロシアムの最上部には。

見覚えのない紋章が掲げられていた。

その瞬間。

ハカセは確信する。

ここには。

ただOriginの世界に転移しただけでは説明できない何かがあると。

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