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ep5.ビギナーズラック

妖精の泉で休息を取った翌日。

ハカセとレイは泉のほとりで今後の方針を話し合っていた。

ジョシュは近くの草むらで寝転がり、時折こちらを見ている。


「そういえば」


レイが思い出したように言った。

「私、転移した場所が洞窟だったんです」

「洞窟?」

「はい。真っ暗で怖かったんですけど、奥に宝箱があって……」

ハカセは少し驚いた。


Originの初期地点付近で宝箱に出会うことは珍しい。


しかもレイは初心者だ。

運が良かったのかもしれない。

「中身は?」

レイはアイテムボックスを開く。

「まず、ムーン鉱石」

銀色に輝く鉱石が現れる。

「おっ」

ハカセが反応する。

「それ結構いい素材だよ」

「そうなんですか?」

「羅針盤系のアイテムの材料になる」

レイの目が少し輝く。

「次は、紫虹蝶の翅です」

虹色に光る蝶の翅。

「それもレアだな」

「上級回復薬とか特殊な薬品に使う素材ですよね」

初心者が序盤で持っているには豪華すぎる。

相当運が良かったらしい。


そして。


レイが最後のアイテムを取り出した瞬間。

ハカセは目を見開いた。

青白く透き通る宝石。

指輪の中心で淡い光が揺れている。

「え……?」

思わず声が漏れる。

「どうしたんですか?」

「かなりのレア物じゃないか」

レイは首を傾げた。

「でもこれって、防具の耐久値が上がるやつですよね?」

「ああ、それは蒼い宝石の指輪かな」

ハカセは首を横に振る。

「こっちは違う」

指輪を手に取る。

すると説明ウィンドウが表示された。

【青白い宝石の指輪】

特殊封印装置

やっぱりだ。

「これ、一つ前の大型アップデートで実装されたアイテムなんだ」

「そうなんですか?」

「うん。でもドロップ率が異常に低い」

ハカセは苦笑する。

「実は僕も実物を見るのはこれで2個目かな」

「えっ!?」

レイが驚く。

しかもフレンドが出したやつなんだよな。

「攻略情報や検証動画では見たことあるんだけどね」

「結局自分では一回も出なかった」

やり込んだハカセですら未所持。

それだけで価値が分かる。

「そんなに凄い物なんですね……」

「性能も面白いんだ」

ハカセは説明を続ける。

「ゲームの設定だと、小型生物の封印装置ってことになってる」

「封印装置?」

「各指輪には固有のレベルが設定されてる」

レイは真剣に聞く。

「装備者が得た経験値の5%を吸収して、指輪自身が成長するんだ」

「へえ……」

「そしてレベル10になると」

ハカセは指輪を持ち上げた。

「中に封印された生物が出てくる」

レイの目が丸くなる。

「すごい……!」

「だろ?」

「ガチャガチャみたいですね」

「そんな感じ」

ハカセも笑った。

未知の生物。

何が出るか分からない。

それが人気の理由だった。

「だから装備しておくといいよ」

すると。

レイは少し考えた後、指輪をハカセへ差し出した。

「じゃあ、これはハカセさんにあげます」

「ん?」

「命を助けてもらいましたし」

レイは真面目な表情になる。

「この世界ではリスポーンできるかも分からないし……」

「だから持っていてほしいです」

ハカセは少し驚いた。

正直。

欲しい。

かなり欲しい。

ガチ勢なら誰でも欲しい。

未所持アイテム。

しかも超低確率レア。

普通なら即受け取る。

だが。

ハカセは首を横に振った。

「いや、大丈夫」

「え?」

「レイちゃんが付けておいて」

「でも……」

「ハカセさんの方がOriginに何倍も詳しそうですし……」

「うーん」

ハカセは頭を掻く。

「欲しくないって言ったら嘘になるんだけど...」

レイが少し困った顔をする。

するとハカセは笑った。

「凄く綺麗なんだ」

「え?」

「レベル10になって、中から生物が出てくる演出が」

レイは黙って聞く。

「僕はかなりのガチ勢だけど」

「同時に、このゲームのファンでもあるんだ」


泉の水面が揺れる。


「だから味わってほしいんだ」

「初めて見た時の感動を」

「何が出るんだろうってワクワクを」

レイは少し照れたように笑う。

「それに」

ハカセは続けた。

「公式には明言されてないんだけど」

「僕のデータだと」

「レベルやテイム数が少ないプレイヤーの方が強い生物が出やすい……気がする」

「気がする?」

「うん」

「完全に体感」

「検証勢としては最低の発言だね」

レイが思わず吹き出した。

「ふふっ」

ハカセも笑う。

「でも案外そういうの当たるんだよ」

「じゃあ期待しちゃいますね」

「期待していいと思う」

しばらく考えた後。

レイは指輪を大切そうに自分の指にはめた。

青白い光がふわりと輝く。

「わかりました」

「今回はお言葉に甘えます」

「うん」

「でも」

レイは真っ直ぐハカセを見る。

「私にできることがあれば何でも言ってくださいね」

ハカセは頷いた。

「もちろん」

そして立ち上がる。

ジョシュも同時に起き上がった。

「色々任せるよ」

レイも立ち上がる。

青白い宝石の指輪が朝日に輝いていた。

何が生まれるかは分からない。

だが。

その未知こそが冒険の醍醐味だ。


ーーー


レイが指輪を装備したのを確認すると、ハカセはふとムーン鉱石へ目を向けた。


「ムーン鉱石があるなら、羅針盤が作れるな……」

「私羅針盤は使ったことないです」

「一番近くにいるプレイヤーの方向を示してくれるアイテムだなんだけど...」

「じゃあ、他の転移者を探せるんですか?」

「いや」

ハカセは首を振った。

「普通に使ったら意味がないんだよな...僕が使ったら、一番近いプレイヤーはレイちゃんだし」

「なるほど」

「レイちゃんが使ったら、僕の方向が表示されるからね」


レイも気付いたらしい。


「それじゃあお互いを指し示すだけですね」

「そういうこと」


せっかくのムーン鉱石だが、これでは意味がない。

ハカセは腕を組んだ。

だが。

ふと違和感を覚える。

羅針盤。

プレイヤー。


設定が意味を持つ世界。


「ん?」

ハカセの動きが止まった。

「どうしました?」

レイが不思議そうに見る。

ハカセは何かを思い出したように目を見開く。

「待てよ……」


羅針盤の誰も気にしていなかったフレーバーテキスト。


そして。


この世界の可能性。


全ては試してみなければ分からない。

数秒後。

ハカセは勢いよく立ち上がる。


「閃いた!」

「えっ!?」

「そうか、その可能性があったか……!」


レイはぽかんとしている。

ハカセはニヤリと笑った。


「レイちゃん」

「はい?」

「もしかしたら他の転移者、見つけられるかもしれない」

「本当ですか!?」

「ああ」

ハカセはムーン鉱石を握りしめる。

「まずは羅針盤を作らないとな」

夕日を反射して、半透明の鉱石が淡く輝いた。





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