ep2. ガチ勢の逃亡劇
ラプトルの群れが迫る。
地面を蹴るたび、背後から鋭い鳴き声が近づいてくる。
「くそっ……速すぎる!」
ハカセは走りながら手当たり次第に地面の物を拾った。
石。
赤い花。
緑色の葉。
木の枝。
見慣れた素材ばかりだ。
その瞬間だった。
拾ったはずの素材が手から消える。
「は?」
反射的に立ち止まりそうになる。
しかし後ろにはラプトル。
考える暇はない。
もう一度石を拾う。
すると石は光となり消えた。
そして視界の端に文字が浮かぶ。
【石 ×1 収納】
「アイテムボックス!?」
ゲームと同じだった。
採取したアイテムは自動収納されるらしい。
「助かった!」
僕は走りながら叫ぶ。
「アイテムボックス、オープン!」
空中に青白いウィンドウが展開された。
音声認識。
これも健在だった。
いくつかのアイテム一覧が表示される。
【ラプトルの着ぐるみ】
「こんなもん持ってきてたのか俺!」
イベントで購入したネタ装備だ。
即座に装備する。
次の瞬間。
全身を緑色の着ぐるみが覆った。
【防御+3】
【俊敏+3】
身体が少し軽くなる。
だが。
後ろのラプトルとの差はほとんど縮まらない。
「全然足りねぇ!」
目の前に巨大な影が現れる。
ブロントサウルス。
草原を悠然と歩く超大型草食恐竜。
ハカセは迷わなかった。
その巨体の脚の間へ飛び込む。
ドゴン。
地面が揺れる。
後ろの二匹が進路を塞がれた。
怒ったブロントサウルスが尾を振る。
ラプトルたちが吹き飛ばされる。
「よし!」
しかし。
一匹だけ。
最も執念深い個体が追ってきていた。
爪が太腿を切り裂く。
激痛。
右脚が熱い。
血が流れている。
スタミナゲージは既に空。
息ができない。
肺が焼ける。
身体が重い。
そしてついに。
足がもつれた。
転倒。
地面に叩きつけられる。
着ぐるみ装備は耐久値を使い果たし、消滅した。
「終わった……」
ラプトルが飛びかかる。
牙が右太腿に食い込んだ。
ブチッ。
肉が裂ける音。
視界が真っ白になる。
絶叫すら出ない。
体力ゲージが激減する。
だが。
数秒後。
異変が起きた。
ラプトルがふらつく。
「ギャ……?」
一歩。
二歩。
そして。
ドサリ。
地面に倒れ込んだ。
眠っている。
完全に。
「はは……」
血まみれのハカセは笑った。
「引っかかったな」
走りながら採取していた植物。
あれは素材集めではない。
睡眠薬の材料だった。
Originでは序盤から有名な調合だ。
ゲームでは矢に塗ったり、弾に調合して使うが...
ここは現実になったOriginだ。
弓や矢なんて作る時間はなかった。
だから。
睡眠薬を自分の傷口の周囲に塗った。
ラプトルが出血部位を肉ごと食いちぎることを見越して。
「ゲームじゃできねぇ裏技だけどな……」
その後。
近くを歩いていた小型生物を石斧で仕留めた。
解体。
小型生物はポリゴンのようなものになって消えた。
肉を回収。
ラプトルのアイテムボックスを開く。
眠った生物にもアイテムボックスが存在していた。
肉を収納する。
テイムゲージがわずかに上昇する。
成功だ。
「俺はOriginガチ勢だぜ……」
血で濡れた口元が笑う。
「ラプトルなんか逃げるだけじゃなくて、手に入れてやるよ……」
しかし。
その瞬間。
身体が大きく傾いた。
視界が赤く染まる。
【HP 10%】
【状態異常:瀕死】
【出血】
【感染リスク:高】
右脚はほとんど感覚がない。
眠ったラプトルの横で、ハカセもまた倒れ込んだ。
夕日が草原を赤く染める。
このままラプトルが目覚めれば食われる。
目覚めなくても出血で死ぬ。
ゲームなら包帯を巻けば済む。
だが痛みは現実だ。
ハカセは薄れる意識の中で思う。
(頼む……成功してくれ……)
そして視界は闇へ沈んでいった。




