ep1.プラネットの世界へようこそ
「Origin Ver.4.0 ―― 新大陸オーロラ 配信開始」
その文字が画面に表示された瞬間、僕ことプレイヤーネーム「ハカセ」は思わず口元を緩めた。
『Origin』
人類未踏の大地「プラネット」を探索し、原始生物や恐竜、または幻想生物をテイムして生き抜くオープンワールドゲーム。
小型のラプトルの群れを連れ従う者もいれば、全長三十メートルを超える竜脚類を拠点代わりにする者もいる。
そして今回の大型アップデートでは、新大陸「オーロラ」が実装される。
公式が公開した映像には、一度も見たことのない巨大生物たちが映っていた。
プレイヤーたちは大騒ぎだ。
もちろんハカセも例外ではない。
「今日は徹夜だな」
独り言を呟きながらダウンロードボタンを押す。
進行バーがゆっくりと伸びていく。
15%。
48%。
73%。
部屋にはパソコンの駆動音だけが響いていた。
やがて進行率は99%に達する。
その時だった。
モニターが激しく明滅した。
「うわっ!?」
画面全体が真っ白に染まる。
聞いたことのない警告音。
耳鳴り。
視界の揺れ。
モニター中央に一行だけ表示された。
《プレイヤー同期中》
「同期……?」
そんな表示は見たことがない。
次の瞬間。
強烈な眠気がハカセを襲った。
意識が沈む。
体から力が抜ける。
床に倒れ込む感覚すら曖昧なまま、世界は闇に飲まれた。
何かの鳴き声で目が覚めた。
「……ん」
土の匂い。
草の感触。
肌を撫でる風。
目を開く。
そこにあったのは自室の天井ではなかった。
果てしなく広がる青空だった。
「は……?」
飛び起きる。
周囲は密林。
見上げるほど巨大なシダ植物。
見たこともない花々。
遠くから聞こえる咆哮。
まるで――。
「Origin……?」
思わず呟く。
その瞬間、頭上で影が動いた。
ドスン。
地面が揺れる。
振り向いたハカセの目に映ったのは、巨大な恐竜だった。
長い首。
灰色の鱗。
一本一本が岩のような脚。
間違いない。
ゲーム序盤で見かける草食恐竜。
だが画面越しとは違う。
その巨体は圧倒的だった。
呼吸するたびに胸郭が膨らみ、吐息だけで草が揺れる。
「いや……いやいやいや……」
夢じゃない。
そう確信した瞬間。
目の前に青白いウィンドウが現れた。
【Origin Ver.4.0】
プレイヤー:ハカセ
状態:正常
所持テイム:0
「……は?」
所持テイム:0。
それを見て血の気が引いた。
Originではテイムした生物こそが生存の鍵だ。
戦闘も移動も採集も、すべて仲間の恐竜が支えてくれる。
つまり今のハカセは――
裸一貫で原始世界に放り込まれた新人プレイヤーそのものだった。この世界では肉食生物の餌と同義である。
その時。
背後の草むらが揺れた。
ガサッ。
振り向く。
そこには青い瞳が二つ。
低い唸り声。
そして鋭い鉤爪。
序盤最凶の肉食恐竜。
ブルー・ラプトル
一頭。
いや、二頭。
三頭。
群れだった。
ハカセは固まる。
ラプトルたちは獲物を見つけた目をしていた。
「ちょっと待て……目覚めたばっかなんだけど!?」
その叫びと同時に、ラプトルたちが僕、ハカセに容赦も、遠慮も無く。
飛びかかった。




