6:どこに行くんだ?
お互いの気持ちの確認も終えたので、仕事に戻ろうとしていたら、レンブラント様にガシッと腕を掴まれた。
「どこに行くんだ?」
「へ?」
真剣な表情でそう言われ、この一瞬で何か怒らせてしまうような何かがあっただろうかと焦った。
「こんな時間だ。送っていこう」
「こん? …………ど、どこに?」
「家だが? 大切な婚約者を一人で帰らせるわけがないだろう?」
ハッと気が付いた。
レンブラント様、国王陛下とお話ししたり、副団長が騎士団長室を出て行ったりで、一日が終わったと思い込んでいるのだろう。
外、めちゃくちゃ明るいけど。
どうする?
突っ込むべきか、本人が気付くまで放置するべきか。
いや、そうした場合、間違いなく家まで送り届けられる気がする。
「レンブラント様――」
「もしかして、やはり愛想を尽かして……」
「いえ、まだ朝です」
「あ……」
レンブラント様が気付いたらしく、コホンと咳払い。
「そうだったな。送り届けるのは仕事が終わってからにしよう」
クールにキメつつ執務机に向かっていた。
――――耳、ちょっと赤いわね。
その後、二時間ほどして戻ってきた副団長。
「マリウス、仕事を放ってどこに行っていたんだ?」
「ん? お前らがしっぽりするのにそのくらいかかるかなーって」
しっぽりって、落ち着いて話すとか時間をかけて飲んだりとか、そういうことだったろうか。始業前にそんなことにはならないのでは?
それともまた男性特有の隠語とかいうやつだろうかと、考えつつ手元の書類を処理していたのだけど、ゴスッという音が聞こえて視線を上げた。
レンブラント様の机にあったはずの、手のひらサイズのペーパーウェイトが副団長の足元に落ちていた。
副団長が「あぶねぇだろ!」と怒りながらもペーパーウェイトを拾ってレンブラント様に渡していた。優しいというか真面目というか。不思議な人だ。
「お前は! なんてことを言うんだっ!」
今日は珍しい日だ。またレンブラント様が声を荒げている。
怒るレンブラント様もなんだか可愛い。というか顔が真っ赤だけど、そんなに怒る言葉だったのだろうか?
「お前、ほんとむっつりだよなぁ」
怒るレンブラント様をよそに、副団長はケタケタと笑いながら自分の執務机に座って、書類仕事を始めていた。
「クリステル、そのっ、私はそんなつもりで、そのっ……………………」
「はい? あ、団長こちらの書類、サイン漏れしてます」
「あ、うん。ありがとう、クリステル」
レンブラント様に渡しに行くと、ふわりと微笑んでお礼を言ってくれる。
仕事をしているだけなのに、毎回こんな素敵なご褒美をもらっていいものなのか。
レンブラント様の補佐官として働くようになったのは、ひょんな巡り合わせからだった――――。




