3:婚約者が死んだ。社会的に。
翌朝、婚約者が死んだ――――。
社会的に。
朝刊に載るであろう記事を差し止めろって言ったのに、まさかのご本人インタビューまで掲載されていた。
『レンブラント騎士団長は言う、「クリステルは本当に出来た子なんだ」と。彼は完全に尻に敷かれているようだ。もしかして今回の事件は、恋人たちのそういったプレイなのかと聞いてみたが、レンブラント騎士団長は首を横に振る。「彼女はただ冷静に対処してくれただけなんだよ。私の酷いドジに対してね」男でも見惚れそうなほどの笑顔で、婚約者を褒めるレンブラント卿。だが、その場を見ていた者たちの意見は違う。婚約者というにはあまりにも違和感だった、臀部を晒してたレンブラント様を侮蔑して見下ろしていた、そういうプレイなのかと思った、などの証言があった。真相はわからないままであった――――』
何があってこうなった。
執事から渡された新聞を読み終え、勢い余ってグシャリと丸めてしまった。
「あ。お父様は?」
「読み終えてございます。いつもの呵々大笑といった感じでございました」
「そちらはいいわね。問題は、騎士団ね……」
大慌てで着替えて、騎士団本部に出勤した。
いつもであれば、王城門の守備騎士と雑談したり、本部近くにある洗濯場でメイドたちに挨拶してから団長室に向かうが、今日はそれどころではない。
「おはよう、メーヴィス嬢。なぁ――」
「おはようございます。急いでおりますので失礼いたします」
「おはよー! ねぇねぇ、クリステ――」
「ごめんね、急いでるの」
挨拶もそこそこに、騎士団長室へと駆け込んだ。
「団長――――あれ?」
「あー。レンブラントなら陛下に呼び出されたぜ」
遅かった。
副騎士団長いわく、出勤して直ぐに国王陛下の執務室に呼び出されていたらしい。
そして、本人は何かしたっけな、といった軽い反応だったとか。
いや流石に、公然わいせつなヤーツはヤバいですって。なんで昨日の今日で忘れられたんですか。
減俸か謹慎処分か。考えたくはないが、解雇……最悪は逮捕だろう。
公然わいせつ罪と受け取られても仕方のないことを、公衆の面前でやらかしているのだ。
「ていうかさ、この記事の丸出しになった尻にボレロを被せ、侮蔑したように見下ろしていたご令嬢、ってお前だろ?」
「……別に侮蔑してませんが」
「まぁな。お前、レンブラント大好きだもんな。あらお尻が丸見え、可愛いわとか考えてたんだろ?」
「なっ!?」
なぜバレているんだろうか。
いや、さすがに尻丸出しが可愛いとは思っていないが。
常日頃、そんなにバレバレな行動は取ったつもりもないし、覚えもないのに。
「いっつも目で追ってるし、何かとフォローしてやってたし?」
「それは、事務補佐ですので」
「ふうん?」
ニヤニヤ顔で見つめてくる副団長の顔面を殴りたい。そんな衝動を堪えていると、クスリと笑われた。
「アイツの顔や地位とかじゃなくて、中身を知って好きになったんだろ?」
真っ直ぐにそう聞かれてしまうと、流石に否定は出来ない。
「…………まあ、はい。そうですが」
「うっわ、顔真っ赤! クリステルって可愛かったんだな」
副騎士団長がそう言ったと同時に、コホンと咳払いが聞こえた。
「マリウス、私の婚約者を口説き落とすのは、いくら親友といえど許せんな。死ぬか?」
「ちょ、急に剣を抜くなよ! ちげぇよ! クリステルってお前のこと大好きだよなって話をしてたんだよっ」
「呼び捨てか。死にたいんだな?」
「話を聞けって、バカ!」
流石にそんな勘違いで斬られるのは可哀想かもしれないなと思い、レンブラント様を止めた。
マリウス副団長は、そもそも昔から私を呼び捨てにしているし、口説き落とされてもいない。たとえ口説き落とされていたとしても、レンブラント様を裏切る気は毛頭ない。
私の説明を聞いて落ち着いたレンブラント様が、剣を鞘に収めながら謝ってくれた。
「すまなかった。クリステルを疑ったわけではないのだよ」
「わかっています。早とちりなのですよね」
「ん」
「何この当て馬感。二人とも俺の扱い酷くない? てか、陛下は何の用だったんだよ」
「あぁ、それか――――」




