2:隠れファンである
流石にこれ以上デートを続けるのは無理だろうと、桃尻事件に騒然としている庭園を後にし、馬車停留場に向かった。
馬車に乗る際は、レンブラント様が必ずエスコートしてくれる。
「段差があるから気をつけて」
「はい。ありがとうございます」
そうして馬車に乗り込んだ直後、ボレロは洗って返すよとクールに言い放つレンブラント様。
心の底からいらないなと思う。
「差し上げますわ」
「うん? 私のサイズではないが?」
サイズが合ったら着る気なのか。
こういうところもドジだなぁと思う。
「今日はすまなかったね。せっかくのデートだったのに。こういうときに冷静に対処してくれるクリステル嬢が婚約者で本当によかったよ」
「いえ」
レンブラント様は驚くほどにモテる。
驚くほどにモテるが、驚くほどに振られてもいる。
あまりにもドジが多すぎて、『私に振られるために、そんな風にわざとらしくドジをして嫌われようとしないでください』とか斜め上な解釈をされてしまう。
騎士団でレンブラント様の補佐をしている私は、彼のドジは昔から見慣れている。
何より、私の父も相当なドジなので、その場での対応や後始末がかなり得意になってしまった。
父に比べれば、レンブラント様のドジは可愛らしいものである。
まぁ、その父のおかげなのか、せいなのかで、レンブラント様と婚約することになったので、感謝は一ミリほどしているけど。
父がお見合いを兼ねた夜会の主催者に出すはずだった釣書を、間違ってレンブラント様に送付。更にそこで勘違いしたレンブラント様が受諾し、婚約者となってしまった。
「私も、君のお父上のように豪快に笑ってやり過ごせればいいんだが……」
「キャラが違いますので、無理でしょう」
「キャラ……無理…………」
あ、シュンとしてしまった。
「レンブラント様はレンブラント様なりの対処法でいいんですよ。お父様は、ずっと昔からああいうキャラで生きてきた、というだけです」
「ん。君はいつでも私を肯定してくれるね」
ほわりと花開くように笑うレンブラント様。
こういった特別な表情が見れるのは、婚約者の特権だろう。
正直に言おう。私も彼の隠れファンだ。
デートのために金色の髪をピッチリと固めていたけれど、転けたおかげで今はちょっとボサッとした髪型に。
垂れてきた前髪が気になるようで、何度も何度も横にずらしていたせいで、ちょっとダサめの七三ヘアーになりかけている。
「レンブラント様、手をどけてください」
対面で座っていた馬車席で少し身を乗り出して、レンブラント様の髪に手を伸ばす。
グシャグシャと彼の髪を掻き混ぜて、手櫛で整える。
「うわっ、ふふっ。擽ったいな」
「我慢してください」
「ん」
にこにこ笑顔で好き勝手されるレンブラント様は可愛い。みんなこの人がクール紳士だと思っているのが謎である。こんなに可愛いことに気が付かないなんて、もったいない。
かと言って、この可愛さをみんなと共有したいかと言われると、答えはノーである。
「できました」
「ありがとう、クリステル。あ、呼び捨てしてしまった」
「っ――――構いません」
「そう? ふふっ。クリステル」
「なんでしょう?」
「呼んでみただけだよ」
誰かに、気持ち悪い感じでニヤけそうな私の頬を打ってほしい。
可愛すぎでしょ、レンブラント様。
「本当に、お父上に挨拶して行かなくていいのかい?」
「構いません」
尻丸出しなこと忘れていますね。
「それよりも、新聞社に掛け合って明日の記事の確認をしてください」
「ん? なぜだい?」
「先ほどのことが記事になるとまずいので」
「そう?」
「そう!」
クリステルは時々不思議なことを気にするよね、なんて暢気に笑いながらレンブラント様は去っていった。
本当に大丈夫だろうか…………。




