22:十五年前
重なった唇がゆっくりと離れて行った。
「んっ」
「クリステル、鼻で息をするんだ」
「ふぁひ……」
何度も重なる柔らかな唇の感触と、鼻腔から侵入してくるレンブラント様の香水に酔いしれ、彼の胸に身を預けるようにしなだれかかってしまっていた。
「クリステル、ごめん。やりすぎた」
そっと背中を撫でられ、深呼吸するよう言われた。
なんだか手慣れているなと思ったが、口には出さないでおいた。もし違ったら、妙に申し訳ないというかいたたまれないから。
「えーっと、暴走してしまったが……クリステルが不安に思っていることは他にはないか?」
「不安?」
胸に預けていた頬を上げ、レンブラント様の瞳を見つめると、首を傾げてにこりと微笑んでくれた。
今、こんなに幸せなタイミングで言うべきなのだろうかと迷いが出る。
でも、私は逃げたくない。
もうこれ以上、隠しておきたくない。
「少しだけ昔のお話をしても、いいでしょうか?」
「ん。何でも聞くよ」
優しい声で囁くように返事をしてくれるレンブラント様。
あぁ、これから彼の心や表情を曇らせてしまうのかと思うと、胃が疼く。
せっかく愛していると確かめあったのに。
後出しでこんな話をして、彼を傷付ける意味はあるのだろうか。
でも、隠し通せる話でもないし、
「私がまだ七歳だった、十五年前のお話です」
抱きしめるようにして、私の背中を撫でてくれていたレンブラント様。
彼から身体を離そうとしたけれど、甘い声で「このままで」と言われ、ついそのまま話を続けてしまった。
ある夏の日、我が家は大きな取引を終え家に戻った。その直後に、商談相手が盗賊団に襲われたと報告が入った。そして、残党が逃げたとも。
念のためにとセーフハウスに逃げ込んで暫く経ったころ、さらに報告が入った。
被害は甚大で、商談相手の護衛の半数は死亡。盗賊団もほぼ壊滅させはしたが、盗賊二人が馬車で逃走した。
護衛たちも馬車に乗り盗賊を追いかけている途中、残党の馬車が、市街地で馬車に乗り込もうとしていた少女を撥ねた。
「っ…………」
少女の話をした瞬間、レンブラント様の腕がビクリと震え、全身にギチリと力が入ったのが分かってしまった。
離れていれば良かった。
レンブラント様の胸に手を置き、そっと押し返す。彼の顔は見る勇気がない。俯いたままで話を続けた。
護衛は残党の追跡を諦め、少女の救助に徹したが、少女の死亡はその場で確認されたと報告された。
父は私をセーフハウスに残し、事故現場へと走った。
その後のことは、私には知らされていない。
盗賊に襲われるかもしれないという恐怖と、自分たちのせいで人の命が奪われたショック、関係ない人たちを巻き込んでしまったことへの罪悪感で数日寝込んでしまった。
そして、自己防衛本能からか、それらを長い間忘れていた。
父は、私にそのことを思い出させるのは酷だと、ずっと隠し通していた。
レンブラント様の下で働くようになって、妹様が亡くなられているのを聞いた。その後、色々な情報が絡み合い、気が付いた。
あのとき巻き込まれたのは、レンブラント様の妹なのだと。
「レンブラント様の……妹様を殺したのは、私たちです――――」




